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【記録員コラム】勝投手はだれ?

 プロ野球の公式戦において、勝投手はどのように決まるのか、ご存知でしょうか。先発投手であれば、5イニング以上は投げないと勝投手の記録は与えられない、ということはご存知の方も多いかと思います。公認野球規則の9.17には、下記のように示されています。

9.17
(a)ある投手の任務中、あるいは代打者または代走者と代わって退いた回に、自チームがリードを奪い、しかもそのリードが最後まで保たれた場合、その投手に勝投手の記録が与えられる。

つまり、「勝投手の記録は、自チームが決勝点を奪った時に投げていた投手に与えられる」、これが大前提です。この基本に、いくつかの条件があります。

(b)先発投手は、次の回数を完了しなければ勝投手の記録は与えられない。
 (1)勝チームの守備が6回以上の試合では5回。
 (2)勝チームの守備が5回(6回未満)の試合では4回。

 (1)は冒頭で触れた通りですが、(2)に関してご存知だったという方は、かなりの野球規則通かと思われます。降雨で5回コールドゲームとなった場合等は、先発投手が4回しか投げていなくても、自チームのリードが最後まで保たれたら勝投手となります。

 さてここからが今回のコラムの本題です。先発投手が前述の条件を満たさなかった場合、どのように勝投手を決めるのでしょうか。救援投手が1人だけであればその投手に勝投手の記録が与えられます。2人以上の救援投手が出場したのであれば、「勝利をもたらすのに最も効果的な投球を行なったと記録員が判断した1人の救援投手に、勝投手の記録を与える。」と、野球規則に載っています。つまり、このような試合展開になった場合には、その試合を担当の公式記録員が、勝投手を決定する権限を持っている、ということになります。

 「最も効果的な投球」をした救援投手を決定するにおいてまず重要な要素は、投球回数です。投球回数が他の投手より1回以上多い救援投手がいた場合には、その投手に勝投手の記録を与えます(野球規則細則Ⓐ16より)。例えば投手Aの投球回数が1回1/3、投手Bが2回1/3だったとすれば、投手Aが無失点、投手Bが何点を失ったとしても自チームのリードが保たれていれば、投球回数が1回多い投手Bが勝投手となります。なぜなら1つでも多くアウトを重ねるということがそれだけ重要だからです。

 投球回数が同じか、その差が1回未満の救援投手しかいない場合は、失点、自責点、得点させた走者数、試合の流れ、登板時の得点差等を考慮します。例えば投手Cが7点リードの場面で1回1/3を投げて3失点、投手Dが4点リードの場面で2/3を投げて無失点だったとすれば、先ほどの例とは異なり投球回数の差が1回未満の為、点差がより少ない場面で登板して無失点に抑えた投手Dに勝投手の記録を与えると考えられます。ただし、これもその試合を担当の公式記録員の判断に委ねられているので、必ずしもこうなるとは限りません。

 もし、2人以上の投手が同程度に効果的な投球を行なった場合、例えば投手F、G、Hがいずれも投球回数1回ずつ無失点で抑えたといった場合には、先に登板した投手Fに勝投手の記録を与えます。

 ここまで勝投手の決め方について説明してきましたが、なかなか難しいかと思います。そこで、先日に私が見ていたパ・リーグの試合で、勝投手を決めるにあたりとても考えさせられる試合がありましたので、紹介します。

2017年5月27日(土) 日本ハム-ソフトバンク8回戦(札幌ドーム)

 ソフトバンクは5回表の時点で11-3と大きくリードしていましたが、先発投手の松本裕が4回1/3で降板し、先発投手が勝投手の記録を得るための条件を満たしませんでした。その後、計4人の救援投手が登板し、ソフトバンクがリードを保ったまま13-8で勝利する、という試合です。

松本裕 4回1/3 6失点
石川 1/3 1失点 6点リードの5回裏1死二塁で登板
五十嵐 1/3 0失点 5点リードの5回裏2死一、三塁で登板
2回 1失点 4点リードの6回裏から登板
岩嵜 2回 0失点 5点リードの8回裏から登板

 5回裏が終わった時点で、石川と五十嵐の投球内容を比較します。投球回数は同じですが、登板時の得点差が少なく無失点で抑えた五十嵐のほうが、勝利をもたらすのに効果的な投球だったと考えます。しかしその後、6回裏から登板した森が7回裏に1アウトを取った時点で投球回数が1回1/3に達し、投球回数の差が1回以上となった為、石川と五十嵐に勝投手の記録を与えることはなくなります。そして8回裏から登板した岩嵜が、仮に1回を投げただけで9回裏から他の救援投手に交代していたとすれば、2回を投げた森よりも投球回数の差が1回以上となる投手はいなくなる為、規則的に森が勝投手となるところでした。しかし実際には岩嵜が2回を投げて投球回数が森と同じになった為、森と岩嵜のどちらが勝利をもたらすのにより効果的な投球だったかを判断することになりました。

 結論は、森は岩嵜よりもリードが1点少ない場面で登板し、失点したとはいえ1失点だけであり、5回まで両チームが点を取り合っていた中で6回裏は三者凡退に抑えて試合の流れをつくり、同程度に効果的な投球の場合は先に登板した投手に勝投手の記録を与えるという原則のもと、森に勝投手の記録を与えました。


 今回のコラムは少し難しかったかもしれません。勝投手の記録をどの投手に与えるか、ということは公式記録員にとって常に議論をしていかなければならないテーマの一つだと認識しており、私は一軍、二軍全ての公式戦において、どのように勝投手が決まったか、スコアテーブルを見て確認しています。先発投手に勝投手の記録が与えられていれば難しいことはないですが、今回紹介した試合のようなケースもあります。そんな目線でプロ野球を楽しむ、というのも面白いのではないでしょうか。最後に、公式記録員は試合中、スコアを記入しつつ、安打と失策の判断をしつつ、試合状況によっては勝投手の記録を誰に与えるかまであらゆることに考えを巡らせながら仕事をしている、ということを紹介できたなら幸いです。

【NPB公式記録員 伊藤亮】