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【記録員コラム】LINEのお話(前編)

 唐突ですが、冒頭からクイズです。

問1. 投手板の前縁から本塁まで(いわゆるバッテリー間)の距離は?
問2. 本塁から一塁ベースまで(いわゆる塁間)の距離は?
問3. ファウルラインやバッタースボックスなど、ラインの幅は?

 正解は問1が18.44メートル、問2が27.43メートルです。この2問は多くの人が答えられたと思います。問3の正解は7.6センチですが、わかりましたか。先日、50人近くが集まったある講習会の場で同じ質問をしたところ、問3=ライン幅を知っていた人はわずか1人でした。野球場を設定する上で欠かせない規定ですが、案外気に留めることは少ないようです。公認野球規則を読んでも、バッテリー間や塁間の距離が本文の2.00「競技場」に明記されているのに対し、ライン幅は巻頭の「野球競技場区画線」の一画に、ファウルラインを矢印で挟んでインチ表示で「3」と記されているだけです。(注:3インチをセンチ換算すると約7.6になります)

 試合前のノックが終わり、整備されたグラウンドに描かれる美しい白線はゲームへの緊張感を一層高めます。そこで今回は、ラインにスポットを当てたコラムです。

 当然ですが、各々のスポーツには規則がありライン幅も決められています。屋内球技の代表格であるバレーボール、バスケットボール、ハンドボールは5センチで統一されています。一方、屋外球技となると野球と競技場が類似しているソフトボールは7.6センチ、サッカー12センチ以下、フットサル8センチ、フィールドホッケー7.5センチ、テニス(屋内でも行いますが)はラインの場所によって2.5~10センチと、万別です。

 驚かされるのは先日まで日本中を沸かせたラグビーで、なんと規定そのものがありません。極論では幅100センチのラインでもOKですが、実際は大会ごとに決めているようです。ちなみに、ワールドカップ2019日本大会は10センチで運用されたそうです。他にも陸上競技は5センチ、大相撲の仕切り線は6センチとなっていて、普段は気に留めないライン幅も調べると競技ごとに違いがあるようですね。

 消石灰をラインカーに入れ、張った巻尺に沿ってコロコロ…。野球経験者なら一度はラインを引いたことがあるかと思います。消石灰は安全性の問題から、平成の半ばには炭酸カルシウムを原料としたラインパウダーに代わったようですが、ラインカーを転がす光景は今も変わりません。そんな中、ふらり立ち寄った野球場で珍しい「ライン引き」に遭遇し、目を奪われました。これがその時の写真です。

 場所は北海道の野球場の聖地・札幌市円山球場。写真には2016年6月の年月が残ります。高校野球の地区予選だったのでしょうか。今年、再度お邪魔をして話を伺い、実演をしていただきました。

 パウダーを入れる器は、ホームセンターで購入したアルミ素材を、職員が裁断、折り曲げをして作ったオリジナル品です。パウダーの出口をライン幅と同じ7.6センチにし、その両サイドを折り曲げてパウダーが留まる空間を作ります。パウダー出口の両サイドにU字形のツメを付ければ完成で、“テッパン”と呼んでいるそうです。

 さあ、実演です。この道25年のベテランもいるそうですが、この日は経験9年の竹村さんが担当されました。ピーンと張ったトラロープに片方のツメを引っ掛け、ロープに沿って後ろへ一気に下がって行きます。ツメをロープに掛けることにより直進性は保たれます。「ロープとツメの接点を微調整しつつ、テッパンの角度を徐々に上げてパウダーの出る量を一定にするのが腕の見せどころですね」。一緒に傍らで見ていた札幌市円山総合運動場の杉山公一さんが、解説してくださいました。引きあがった真新しい白線は美しく、見事なまでに一直線で、そのまま円山の杜に吸い込まれていくようでした。

 高性能のラインカーが市販されている中、円山球場はなぜ前近代的とも言えるテッパンを使い続けているのでしょうか。「バッタースボックスなどはラインカーで引いています。テッパンを使うのはファウルラインの1本引きの時だけです。ラインカーより、真っ直ぐ引ける、早く引ける、(ラインカーのタイヤの跡が付かないので)綺麗に仕上がる、という利点があるのです。ラインカー以外で白線を引いているのは、全国でここだけだと聞いています」。杉山さんがちょっと誇らしげに、語りました。

 ラインカーの歴史をたどってみました。その製造、販売では老舗企業の株式会社エバニューに問い合わせると、詳しい資料は残っていませんがと前置きした上で「弊社が市販を始めたのは戦後まもなく」との返答。日本に野球が伝わったのは1800年代後半ですから、50年以上経ってからになります。他社がそれ以前に製造していた可能性はありますが、それでもラインカーが普及するまでは、各球場でテッパンのような器を作って、白線を引いていたのでしょう。円山球場の開場は1934年。80余年の歳月が経ちますが、このテッパンにもそれに等しい歴史が刻まれているのでは、と想像します。

 杉山さんによると、テッパンを使ったライン引きは今後も続けて行くそうです。円山球場では2009年を最後にプロ野球は開催されていませんが、機会があれば是非スタンドに足を運んで、唯一ここだけに残った“匠の技”を目に焼き付けてください。

 綺麗に白線が描かれ、いよいよ試合開始です。ラインの話は続きますが、ちょっと長くなりましたので今回はこのあたりで。来年1月下旬、2回目をアップ予定です。

【NPB公式記録員 山本勉】

調査協力・札幌市円山総合運動場
株式会社「エバニュー」
写真提供・札幌市