【コラム】史上初のプロ初登板初完封&無四死球&2ケタ奪三振、逆境からはい上がる強さを持つヤクルト新人・松本健吾
25歳の新人右腕が球史に残る快挙を成し遂げた。5月15日、松山で行われた広島戦。ヤクルト先発の松本健吾は最速149キロの直球にスプリット、スライダー、カーブ、カットボールと多彩な変化球を効果的に使い、広島打線を封じ込む。4回から6イニング連続で三者凡退と危なげない内容で3安打10奪三振の完封勝利を飾った。「完封はまったくイメージしていませんでした。最初から全力で行って、気がついたら9回になっていました。100点満点かなと思います」。プロ初登板初完封勝利は史上30人目だが、無四死球&2ケタ奪三振を加えると史上初の快挙だった。「とてもうれしいです。新人ですし、チームに勢いをもってくるようなピッチングを心掛けました。思い切っていったのが、いい結果になって良かったです」とお立ち台でさわやかな笑顔を浮かべた。
今季、トヨタ自動車からドラフト2位で入団した松本健。東海大菅生高では1学年下の戸田懐生(現巨人)とのダブルエースとして、3年夏に清宮幸太郎(現日本ハム)擁する早実を破り、西東京大会で優勝を果たす。甲子園では同校過去最高の4強入り。進学した亜大では主戦となった4年春に3勝、リーグ4位の防御率1.61の好成績を残した。しかし、プロ志望届を提出した勝負の秋は調子を崩し、1勝3敗、防御率4.00に終わる。「大学4年秋のリーグ戦は僕のせいで負ける試合が何試合かあって。ドラフトの日も僕が炎上して負けて、正直ドラフト会議まで頭を回す余裕がなかった。選ばれなかったときも、そりゃそうだよな、と」。チームメートの岡留英貴が阪神に5位で指名を受ける傍ら、指名漏れの悔しさを味わった。
失意の日を経て、松本健はトヨタ自動車で生まれ変わった。川尻一旗投手コーチとの二人三脚で一から技術面、精神面を磨いた。成果は試合結果として表れた。社会人二大大会計4試合19回を投げ無失点。2022年の日本選手権ではパナソニックとの2回戦で自己最速152キロを計測し完封。23年の都市対抗ではENEOSとの2回戦、JR東日本との準決勝の終盤3イニングを抑え、優秀選手に選出されている。社会人2年間の成長が、2位指名につながった。
プロでも順風満帆ではなかった。春季キャンプで初の実戦登板となった2月21日の練習試合・楽天戦(浦添)で2回3安打無失点デビュー。髙津臣吾監督は「ストライクが入るというのはすごく大きな武器だと思っている。もっともっと投球のコツというか、打者に対してという部分を磨いていけばいい。いいピッチングだったと思います」と評価していたが、3月13日のオープン戦・DeNA戦(横浜)で1回6安打7失点と炎上。ファームに降格が決まった。しかし、イースタン・リーグで4試合登板して防御率0.47。生命線の制球力を磨き、19イニングを投げて自責点はわずか1と見事なピッチングを見せ、一軍昇格を勝ち取った。
抜群の制球力で大崩れしない投球スタイル。今後のピッチングがますます楽しみになってくるが、松本健には何よりも逆境からはい上がる強さがある。5月20日現在、ヤクルトは借金4の5位タイだが、背番号28がチームを浮上させる力となる。
【文責:週刊ベースボール】