【コラム】史上初の同一シーズン両リーグでのサヨナラ打、力強いスイングで勝負する巨人・若林楽人
ベテランの献身的なバッティングを目の当たりにして奮い立った。7月12日のDeNA戦(東京ドーム)、2対2の同点で迎えた9回裏巨人の攻撃。先頭の大城卓三が二塁打で出塁すると、続く坂本勇人はカウント0-2からの4球目、京山将弥が投じた内角低めのスプリットをコンパクトな打撃で右打ち。二ゴロの進塁打となった。一死三塁となり打席に入ったのは若林楽人だ。「坂本さんの進塁打がすごいなと思って。でも、その中で回ってきて、強気でいきました」。初球、外角低めへのスプリットに食らいつく。鋭い当たりの打球は三遊間を破るサヨナラ打。ナインから歓喜のウォーターシャワーを浴び、坂本からはハグもされた。
「本当にうれしいです。冷静に自分のやるべきことをやれたと思います。勝ち、負け、引き分けではまったく違うと思うので、勝ってよかったです。まだ、頭が回っていなくて……。また明日も気を引き締めて頑張ります」
チームを今季2度目の6連勝に導いた劇的打は若林にとって今季2本目のサヨナラ打だった。1本目は西武時代、5月1日の日本ハム戦(ベルーナドーム)。1対1の9回裏、二死二塁で齋藤友貴哉のスライダーを振り抜き、左翼席に放り込んだサヨナラ2ランだった。西武と巨人で劇的勝利の主役となった若林。同一シーズンの両リーグでのサヨナラ打はプロ野球史上初の快挙となった。
若林がプロで初めて脚光を浴びたのは1年目だ。2021年ドラフト4位で駒大から入団。俊足が評価され、シーズン序盤から「一番・左翼」に定着すると出場44試合で20盗塁。驚異のペースで盗塁を重ねていった。しかし、5月30日の阪神戦(メットライフ)で暗転。3回表の外野守備での打球処理の際、左膝前十字じん帯損傷の大ケガを負い、長期戦線離脱を余儀なくされる苦難が待っていた。苦しいリハビリを経て、翌2022年5月31日、奇しくも同じ阪神戦(甲子園)で一軍復帰を果たしたが、患部をかばうことによって生じる別の痛みによって全力で走ることができなかった。
3年目の昨季はキャンプ中に左脇腹を痛め、またしてもリハビリからのシーズンスタート。のちに分かったことだが、この故障も無意識のうちに左膝をかばい負荷がかかっていたことが原因だった。シーズン中には突如として再び左膝に激痛を感じるようになり、思うようなプレーができなくなってしまう。痛みの原因を探ったが、解決策は見つからなかった。オフに、より詳しい精密検査をした結果、最初の手術時に入れたボルトが神経を触り、痛みが発生している診断結果に。すでに役割を終えていたボルトの除去手術を行い、ようやく万全の体で野球と向き合えるようになった。
再びレギュラー奪取へ。柳田悠岐、近藤健介(ソフトバンク)に匹敵する打球速度を誇る若林は強打に活路を見出した。西武ではそれが実を結ぶことはなかったが、6月25日に松原聖弥との交換トレードで巨人へ移籍すると力強いスイングを武器に頭角を現しつつある。何より7月14日現在、得点圏打率.429と勝負強さが光る。
「バットが振れないと前に飛ばないですし、怖さがない打者にはなりたくない」
激しい優勝争いを繰り広げる巨人。4年ぶりの頂点へ若林が新天地で暴れ回る。
【文責:週刊ベースボール】