【コラム】ツバメが誇る〝代打の神様″が復活の決勝打、後悔することなくバットを振るヤクルト・川端慎吾
「彼は1打席で生きている男。本当にいい仕事をしてくれたと思います」とヤクルト・髙津臣吾監督は絶賛した。7月27日の広島戦(神宮)。0対0の7回一死満塁、指揮官が代打で名前を告げたのは川端慎吾だった。カウント3-1からの5球目、森下暢仁が投じた真ん中高めのストレートを力負けせずに打ち返すと打球はライナーで一塁手・坂倉将吾のミットをはじき右前へ。2者がホームに生還する適時打が決勝打に。3対0の勝利に36歳のベテランが貢献した。
〝代打の神様″として2021年には歴代2位のシーズン代打30安打をマークした川端。しかし、今季は不調に苦しみ6月27日に出場選手登録を抹消された。約3週間の二軍生活。己を見つめ直して、好球必打の原点に立ち返った。7月19日に再昇格。髙津監督には「プレッシャーのかかるところで名前を呼ばせてもらう」と声を掛けられていたが、「マイナスのことを考えずに打席に入れました」と前向きな思考でバットを握った。「とにかく甘い球をシンプルに打ちにいこうと考えていました」。その思いが好結果につながった。
14年ぶりの頂点に立った2015年には打率.336で首位打者を獲得。打撃センスあふれる巧打者だが、やはり1試合で4、5打席に立つ先発出場と、1打席勝負の代打の違いは大きいと言う。
「まったく違います。もう別物ですね。先発で出場していたころは、今みたいに積極的に振りにいっていないですから。むしろ打ちにいかず、投手に球をたくさん投げさせるタイプでした。今は真逆のことをやっていますよ。あとはタイミングを合わせやすくするために、打撃フォームの動きを小さくしたりもしています。昔は今以上に足を上げて打っていましたし、打ち方も変わっています。先発出場と代打は違うものだと思ってやっていますね」
代打特有の難しさもある。スタメンでは先発投手と2、3回勝負でき、球筋を何度も見ることが可能だ。また、球数が積み重なれば疲れもあって投手の状態は落ちる。それに対して代打は1打席勝負で、かつ出番は試合終盤。相手投手は状態がフレッシュな中継ぎ投手が多いから攻略は困難になってくる。厳しい条件の中、川端が考える代打の極意は「後悔しないこと」だという。
「1打席しかないので。とにかく後悔のない打席を送りたいんです。『今打っておけばよかった』や『なんで振らなかったんだろう』『今の球を振っていれば打てたんじゃないのか』とか。そうならないように集中して、ベンチにいるときからタイミングを合わせます。ほんの少しタイミングがずれて甘い球をとらえられなかったこともあるので。後悔のない打席を多く作るために努力することですね」
ヤクルトは7月29日現在、借金10の5位に沈んでいるが、応援してくれるファンのためにも川端はまだまだ上位進出をあきらめていない。チームを上昇気流に乗せるため、ツバメが誇る〝代打の神様″が価値ある一打を放っていく。
【文責:週刊ベースボール】