【コラム】三振に対しての“こだわり”も勝利のため、チームの勝利へ腕を振り続ける西武・今井達也
粘り強く右腕を振ってきた背番号48に“ご褒美”が待っていた。8月31日の日本ハム戦(ベルーナドーム)。西武先発の今井達也は8回115球を投げて5安打1失点の好投を見せる。しかし、打線の援護がない。0対1で8回裏、西武の攻撃を迎えたが8回一死三塁の好機に古賀悠斗が遊ゴロで二死に。千載一遇のチャンスを逃してしまうのか……。ここで打席に入ったのは代打・栗山巧だった。投手は右腕・生田目翼から左腕・河野竜生にスイッチ。その初球、真ん中高め146キロ直球に栗山はバットを一閃。打球は高々と舞い上がり、右翼席へと吸い込まれていった。
40歳11カ月の大ベテランが見せた魂のひと振りで西武が2対1と逆転。ベンチで打席を見守っていた今井も雄叫びを上げ、ガッツポーズを何度も繰り返した。9回は守護神のアブレイユが日本ハム打線を三者凡退に斬って取り、今井は今季7勝目を手に。ヒーローインタビューでは栗山の逆転弾に「何て言うんですかね。日ごろの努力のたまものというか、『さすが』の一言でした」と最敬礼した。
今季は自身初の開幕投手を務めた今井だが、打線が貧打に苦しんでいることもあり、防御率2.53ながら7勝8敗と負け数が先行している(9月1日現在、以下同)。それでもチームのために投げ続ける姿勢は貫く。この日も「1イニングでも長くというか、とにかく相手に向かっていく姿勢、強気で攻めていく姿勢は、どんな状況でも崩さず投げ続けていこうと心掛けていました」とコメント。さらに、7勝目は楽天戦以外で今季初めての勝利となったが、「そこはあまり気にしていない」ときっぱり。「結果的に自分に勝ちがつかなくても、チームに勝ちがつけばいいと思っています。そこは最後まで続けていきたい」。何よりもチームを最優先する自覚にあふれている。
有言実行の投球も続ける。「最優秀防御率か最多奪三振のタイトルを獲りたい」と開幕前から目標に掲げていたが、154奪三振はリーグトップの成績だ。平均球速152.8キロを誇る直球にキレ味抜群のスライダーを武器に奪三振率9.74をマーク。圧倒的な力でバットの空を切るが、本人は三振へのこだわりを次のように話す。「アウトの取り方で一番リスクが少ないのが三振なんですよ。バットに当たって前に飛んでしまうと、どんなに打ち取っていても何が起こるか分からない。その意味でも、バットに当てさせなければ何も起こらないので」。あくまで、勝利を得るための最大の手段として三振を捉えている。
まだ、26歳と若いが責任感は十分だ。「後輩にきちんと背中で示していかないといけないですし、時にはアドバイスなどもしていきたい」と自身の日ごろの言動や立ち居振る舞いにも気を使っている。4月下旬にはトレードマークだった“ロン毛”をバッサリと切ったが、「何かチームのリフレッシュのきっかけになれば」というのも理由の一つだった。
チームはすでにAクラス入りの可能性が消滅し、クライマックスシリーズにも進出できない。だが、今井のモチベーションが落ちることはない。最多奪三振のタイトル、そして、チームの勝利に向かって最後まで最高の自分をマウンドで表現していく。
【文責:週刊ベースボール】