【コラム】史上2番目の年少記録で2000安打達成、巨人・坂本勇人が積み重ねる日本一への“1本”
技ありの一打で決めた。11月8日のヤクルト戦（東京ドーム）。初回、二死走者なしで打席に入った巨人・坂本勇人は1ボール2ストライクからの4球目、ヤクルト先発・スアレスが投じた外寄りのスライダーに反応。ややタイミングを外された形になったが、目いっぱい両腕を伸ばし、最後は左腕一本でバットを振り切ると、打球はレフト線に弾んだ。巧みな打撃で放った二塁打で記録した通算2000安打に思わずガッツポーズ。今季最多3万1735人の観衆から拍手を受け、こぼれた満面の笑み。花束を受け取ると、スタンドに向かって何度も頭を下げたが、試合後、このときの心情を「想像以上にファンの方が期待してくれていました。あの雰囲気は一生忘れません」と明かした。
史上53人目の大台到達。31歳10カ月での達成は東京・榎本喜八（31歳7カ月）に次ぐ2番目の年少記録で、右打者ではクラウン・土井正博（33歳6カ月）を抜いて史上最年少記録だ。プロ14年目、通算7726打席目での到達。巨人の生え抜きでは川上哲治、長嶋茂雄、王貞治、柴田勲、そして2017年8月13日の広島戦（マツダスタジアム）で達成した阿部慎之助以来6人目で、本拠地での達成は坂本が初めてだった。
ただ、順調に2000安打に到達したわけではない。今季はキャンプイン前から誤算続きだった。2度のインフルエンザ感染、背中の張りで春季キャンプを終えた日も「正直、今までの野球人生の中で一番、調整できていない」と漏らすほどだった。開幕を控えた6月には新型コロナウイルス感染の有無を調べるPCR検査で陽性判定を受けて一時入院。無症状で長期離脱は免れ、同19日の阪神との開幕戦（東京ドーム）ではフル出場したが、やはり調整不足は否めず、6～8月は打率2割台半ばと低迷した。7月には自己ワーストに並ぶ26打席無安打。8月18日時点でセ・リーグ規定打席到達者では最低の打率.225という苦悩の日々を過ごした。
しかし、それでも気を落とす様子は見せない。練習から明るくチームを盛り上げた。原辰徳監督も「調子が良い悪い関係なく、非常にいつでもフラットな形でプレーヤーとしても、チームリーダーとしても戦っている姿を非常に頼もしく感じている」と称賛していた。すると8月下旬からは徐々に調子を取り戻す。9月9日の中日戦ではナゴヤドーム史上初の1試合3本塁打。月間成績も9月は打率.337、6本塁打、18打点、10月は.312、1本塁打、14打点と数字を残し、チームの連覇にも貢献した。
「今でも野球がうまくなりたい。どうやったら、もっと打てるのかなと常日ごろ考えている」という坂本の視線はすでに次にある。2000安打を達成した試合でも2打席目にバックスクリーンへ19号2ラン、3打席目でもショートへの内野安打をマークした。原監督も「2001本目が素晴らしい当たり。やっぱり（いい意味で）途上である、と。本人も3000本を目指していくつもりでしょうし、そういう選手だなとあらためて思いましたね」と感心。坂本も「次の目標はそうなっていくと思います」と3000安打を見据えていることを明かしたが、同時に「1日1本、1本という気持ちは引退するまで変わらないと思います」と冷静に足元を見つめている。
V2を遂げたとき、「野球ができる喜びを感じ、多くの方に支えられて達成できた連覇です。日本一になって恩返ししたい」と語っていた坂本。8年ぶりの日本一をつかみ取るための“1本”を日本シリーズで積み重ねていく。
【文責：週刊ベースボール】
