【球跡巡り・第103回】北陸地方初のプロ野球を開催した 金澤市公設グラウンド
プロ野球公式戦が初めて北陸地方で開催されたのは戦後でした。終戦から1年後の1946年7月13、14日の2日間、石川県金沢市に阪神、ゴールドスター、セネタース、近畿グレートリングの4球団が終結。「職業野球團 北陸シリーズ」と銘打ち4試合を行いました。当時市内には専用野球場がなく、会場は陸上競技やテニス、バスケットなど多目的競技ができる「金澤市公設グラウンド」でした。
ここは1925年に皇太子殿下(後の昭和天皇)の御成婚を記念して「御成婚記念金澤市運動場」として造られ、上記の略称がありました。現在も金沢市営陸上競技場として100年あまりの歴史を刻む由緒ある施設で、日本で最初にアンツーカーを敷き詰めた陸上走路が造られました。
野球場は一周400メートルのトラックの内側にダイヤモンドを取り、外野後方の観客席との仕切りは鉄線一本を張り巡らせただけの簡易な物でした。そこで審判団は「鉄線を直接超えたら本塁打、ゴロで抜けたら三塁打」と特別グラウンドルールを決めます。
「フェアボールが地面に触れた後」の当時の野球規則を要約すると「バウンドしてスタンドに入った場合や、フェンスの下をくぐった場合は二塁打」で現在と同じです。ただし、「神宮球場や甲子園球場のように柵が高いとか、グラウンドが広過ぎる場合には、三塁打にするとか、本塁打にするとか、適当に前もって協定してもよい」というルールがありました。
この日の金澤市公設グラウンドは競技場の構造上、外野席までの距離を十分に取ることが出来ませんでした。配置図では本塁から両翼までは80メートル前後と推定され、広くはありません。現に阪神は7月14日の近畿グレートリング戦で当時の最多記録に並ぶゲーム4本塁打をマーク。シリーズ4試合では9本の柵越えが飛び出しました。当時としても狭い部類に入る外野フィールドで「鉄線の下をゴロで抜けたら三塁打」とした理由は不明ですが、このグラウンドルールが球史に残る「三塁打量産試合」を演出することになります。
2日目の7月14日に行われたセネタース対ゴールドスター7回戦でした。セネタース打線は2回裏に鈴木清一選手が中堅越えの三塁打を放つと、7回裏の一言多十投手の三塁打まで、6イニング連続で三塁打を記録しました。当日のスコアカードに「エンタイトルか否か」が記されていないため詳細は不明ですが、1試合で刻まれた6本の三塁打はプロ野球新記録でした。この数字はその後1949年まで続いた一リーグ時代はもちろん、翌50年から始まったセ・パ両リーグ公式戦でも更新されることはなく、いまも1試合のチーム三塁打記録としてプロ野球最多です。
シリーズ2日間、4試合で記録された85安打のうち長打は28本。その内訳は二塁打4、三塁打15、本塁打9。三塁打が突出していたことがわかります。7月14日のゴールドスター戦で、前記のようにチーム最多三塁打記録の口火を切ったセネタースの鈴木選手は、4回裏に2本目の三塁打。その後の打席で単打、本塁打を放ちゲーム4安打しましたが、どちらかの三塁打が「二塁打」だったらプロ野球史上初のサイクル安打達成だっただけに、恨めしいグラウンドルールでした。
7月13日の阪神対ゴールドスター8回戦では、鉄線によるアクシデントも発生しました。7回表、ゴールドスター・内藤幸三選手のライト後方への飛球を追った阪神の富樫淳外野手が、捕球した直後に外野の観客席に張り巡らされた鉄線に背部を激しく打ちつけ、もんどりうって倒れたのです。富樫選手はその試合は最後まで出場しましたが、翌日から欠場。再びグラウンドに戻ったのは1カ月以上経った8月18日の巨人戦(後楽園)で、この間16試合欠場という重傷でした。
北陸シリーズでは、この年6月29日から日本球界で初めて発売された「野球籤(くじ)」が販売されました。ただし、勝敗や得点を当てる本来の籤とは異なり、当選番号を抽選で選び一等から四等までの当選者を決める宝くじのようなものでした。それでもプロ野球を観戦しながら、籤の楽しみも味わえるとあって「かなりの枚数が売れ、抽選は大いに盛り上がった」と主催の石川新聞は伝えています。
1947年秋にプロ野球公式戦が開催できる県営兼六園野球場が完成します。それ以降の興行はそこで行われ、金澤市公設グラウンドを使用したのはこのシリーズだけでした。冒頭のようにこの施設は金沢市営陸上競技場としていまも歴史を紡いでいます。春には競技場を取り囲むように植えられた約100本の桜の木が鮮やかなピンクの花を咲かせ、市民のお花見スポットになっています。
【NPB公式記録員 山本勉】
| 調査協力・ | 金沢市スポーツ事業団 金沢市立泉野図書館 金沢市立玉川図書館 |
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| 参考資料・ | 石川新聞(昭和21年7月12、14日) 金沢市スポーツ事業団 ホームページ 阪神タイガース 昭和のあゆみ(阪神タイガース編集) |
| 写真提供・ | 金沢市立玉川図書館 金沢市スポーツ事業団 |

