【記録員コラム】走路は追い越し禁止です
先日、打者走者が一塁走者を追い越した為アウトとなる、という珍しいプレイが起きたので、紹介します。
それは、2017年7月19日(水)に北九州市民球場で行われたソフトバンク対西武15回戦の6回表無死一塁という場面でした。打者の金子侑はレフトフェンス際に飛球を放ち、左翼手の中村晃はフェンスに背をつけながら捕球しようとしますが届かず、打球はフェンスに当たりました。一塁走者の炭谷は二塁付近まで走っていましたが、飛球が捕らえられたと見たのか一塁へ戻ってしまいます。打者走者の金子侑は一塁を回って二塁へ向かおうとしていた為、一塁走者の炭谷を追い越してしまい、その時点でアウトとなりました。野球規則5.09(b)(9)には下記の記載があります。
5.09(b) 走者アウト
(9) 後位の走者がアウトとなっていない前位の走者に先んじた場合。(後位の走者がアウトとなる)
記録としては、打者走者の金子侑は打球によって一度は一塁に生きたので、レフトオーバーのシングルヒットと、走塁死となります。仮に打者走者が、一塁走者が戻っていることに気づき、一塁上に留まって追い越しを避けていたらどうなるでしょうか。守備側は打球を処理した左翼手が二塁へ送球していたので、一塁走者が二塁封殺、打者走者は一塁に生きるということになります。打者走者はアウトとならずに済みますが、打球が安打性であっても走者が封殺された場合、安打は記録されない為レフトゴロ、ということになっていました。
前位の走者に先んじてアウト、というケースは滅多にあることではないですが、過去には大きな話題となったプレイがありました。それは2004年9月20日(月)、札幌ドームでの日本ハム対ダイエー25回戦、日本ハムは9回裏の土壇場に3点差を追いつき12-12の同点となり、なおも二死満塁とサヨナラの場面で打席にはSHINJO(当時の登録名)という状況でした。SHINJOが放った飛球はレフトスタンドに入り、誰もがサヨナラ満塁本塁打と思ったところでした。しかし、一塁走者だった田中幸雄が一塁を回ってきたSHINJOと抱き合って回転し、この時点で打者走者が一塁走者に先んじたこととなり、SHINJOはまさかのアウト。このケース、通常ならばSHINJOは本塁打で打点4が記録されるところでしたが、二塁に到達する前にアウトとなった為、レフトオーバーのシングルヒットで打点は1、試合は13-12の1点差で日本ハムのサヨナラ勝利ということになりました。同点の場面だったから1点が入った時点でサヨナラ試合となりましたが、点差によってはせっかくサヨナラとなる打球を放ったにも関わらず同点で延長戦に突入、あるいは敗戦となっていたところでした。
公式記録員として日々プロ野球の試合を記録していますが、時々、思ってもみないプレイが起こることがあります。前述の北九州市民球場での追い越しアウト、私は記録席で見ていました。さすがに常日頃から追い越しアウトが起きるとは想定していないですが、飛球が捕球されなかった時点で一塁走者が二塁から一塁へ戻っていくのが見えていたので、すぐに追い越しアウトだと認識しました。プロ野球ファンの方々の中にも少年野球や高校野球、草野球等でスコアを書くという方も多いかと思いますが、冷静さと客観性、これが大切だと思っています。
最後に、くれぐれも走路は追い越し禁止です。
【NPB公式記録員 伊藤亮】