【コラム】“10度目の正直”でプロ初勝利の中日・金丸夢斗、髙橋宏斗と“左右の両輪”で黄金期復活へ
「重たいですね。10試合分の重さが詰まっています」
試合後に実感を込めて語ったのは中日・金丸夢斗だった。8月7日の阪神戦(バンテリンドーム)。先発した金丸は4回までに3点を失ったが、6、7、8回は三者凡退。中継ぎ陣が不安定なチーム状況から志願して上がった8回のマウンドでは、ストレートが151キロを計測するなど阪神打線を封じ込んだ。味方打線の8点の援護を背に、8回6安打3失点でプロ初勝利をマーク。10試合目の先発でようやく手にしたウイニングボールを格別な思いで見つめた。
好投しても勝利に手が届かない。7月8日の巨人戦(山形)では7回5安打2失点。8回の攻撃で上林誠知が勝ち越し本塁打を打ち、勝ち投手の権利を得た。9回にも1点を追加して初勝利が近づいてきたが、9回裏に暗転。清水達也が2点差を逆転され、サヨナラ負け。金丸のプロ初勝利も土壇場で消えてしまった。前半戦最後の登板となった7月21日のDeNA戦(バンテリンドーム)ではプロ最多となる8回を投げて1失点。しかし、打線が相手エースの東克樹から得点を奪えない。9回も伊勢大夢にゼロに封じられ、完封負けを喫した。7月31日の巨人戦(バンテリンドーム)では一転、自己ワーストの6失点で目を真っ赤に。思うようにいかない日々が続いたが、それでも自分を見失わずにマウンドに立ち、本当の意味でプロのスタートを切った。
150キロを超えるストレートを軸にカーブ、スライダーの変化球もキレ味抜群。関西大時代の昨年3月にはアマチュアながら侍ジャパントップチームに選出された。ドラフトでは4球団が競合した逸材。井上一樹監督は「特別なピッチャーになってほしいと思っている。自分がドラフトで指名して、クジを引いたというのもある。とにかくスケールの大きなピッチャーになってもらいたい」と語り、金丸の話題になると自然に目じりが下がる。期待されるのは同学年の髙橋宏斗と左右の両輪として先発陣を引っ張っていくことだ。かつての山本昌&今中慎二、野口茂樹&川上憲伸、そして吉見一起&チェン・ウェイン。中日が強い時代にはWエースと呼ばれる存在が常にあった。
ドラフト直後には「髙橋投手にはどうしたら、そんなに速い球が投げられるのか聞いてみたい」と口にしていた金丸。昨年末には背番号19から高額なスーツケースをプレゼントされたという。髙橋宏自身は新人時代の春季キャンプ直前にスーツケースがなく、近所の量販店で購入。価格よりも実用的な商品から選ぶしかなかったが、過去の経験から同学年で切磋琢磨したい存在にはプロとして一流の品を持っていてほしかったのだ。
「宏斗に負けないように頑張ります」
プロ勝利後、あらためて決意を述べた金丸。髙橋宏と金丸が大事なカードで計算できる投手に成長していけば、自然とチームの順位は上がっていくはずだ。“夢斗”という名前には「夢に向かってひたむきに努力する人になってほしい」という両親の願いが込められている。中日の黄金期復活へ――。ライバルとともに新人左腕が突き進んでいく。
【文責:週刊ベースボール】