【記録員コラム】肉体的援助ってナンダ!?
2025年もレギュラーシーズンの全日程が無事に終了しました。様々なプレイがあった中で私が公式記録員の視点から気になったプレイを紹介します。
それは2025年6月29日、千葉ロッテ対福岡ソフトバンク11回戦(ZOZOマリン)の7回裏無死一、二塁の場面でのことです。
打者のソト選手は右中間を抜ける二塁打を放ち、二塁走者の西川史礁選手は本塁に生還し得点、続く一塁走者のポランコ選手が三塁を回って本塁へ向かおうとした時、その“事件”は起きました。三塁ベースコーチが、ポランコ選手に対し本塁へ向かうのをストップさせようとした際、その両者が接触してしまったのです。
このプレイに対し、三塁塁審は即座にポランコ選手へのアウトをコールしボールデッドとなった後、場内放送にて肉体的援助でアウトと説明をしました。
ここで野球においてあまり聞きなれない「肉体的援助」という言葉が用いられたのは、このプレイに関する野球規則に下記の通り記載があるからです。
6.01 妨害・オブストラクション・本塁での衝突プレイ <抜粋>
(a)打者または走者の妨害
次の場合は、打者または走者によるインターフェアとなる。
(8)三塁または一塁のベースコーチが、走者に触れるか、または支えるかして、走者の三塁または一塁への帰塁、あるいはそれらの離塁を、肉体的に援助したと審判員が認めた場合。
インターフェアに対するペナルティ 走者はアウトとなり、ボールデッドとなる。
以前、2015年4月30日、巨人対中日6回戦(東京ドーム)の7回裏、長野久義選手が今回と似たようなケースで肉体的援助によりアウトというプレイがあったのですが、この時も「肉体的援助」という言葉が話題になったと記憶しています。
野球規則に「肉体的援助」という言葉があるということは先に紹介した通りですが、ではなぜ、そのような表現になっているのでしょうか。
日本の野球規則は、毎年米国で作成されている「Official Baseball Rules」に基づいて日本野球規則委員会が和訳、及び独自の改訂を加えることによって編纂されています。
そこで、日本の野球規則の基礎となる「Official Baseball Rules」では、紹介したプレイに関してどのような記載になっているのか、調べてみました。
「Official Baseball Rules」より抜粋
In the judgment of the umpire, the base coach at third base, or first base, by touching or holding the runner, physically assists him in returning to or leaving third base or first base;
physically = 肉体的に、身体上、物理的に
assist = 手伝う、援助する、助けとなる
※weblio和英辞典より
これを読むと、確かに日本の野球規則において「肉体的援助」という表現が用いられている理由はわかるかと思います。
しかしながら、日本野球規則委員会では、より的確な表現があるのではないかという声があり議論を続けているとのことで、日本においても意味が定着している「アシスト」という表現をそのまま用いて下記の通り修正することを検討しているようです。
三塁または一塁のベースコーチが、走者に触れるか、またはつかんだりして、走者の三塁または一塁への帰塁、あるいはそれらの離塁をアシストしたと審判員が認めた場合。
一連の流れをご理解していただけましたでしょうか。普段から野球規則に接している公式記録員の私にとって「肉体的援助」という言葉は何度も読んだことがあって馴染みがあり、特に深く考えたことは今までなかったのですが、ファンの皆様からしてみればあまり聞きなれない言葉で違和感があったかと思います。そして、今後の野球規則からは「肉体的援助」という言葉が消えるとのことなので、もしかしたら、野球界においてこの表現が用いられるのは今年で最後となるかもしれません。何かと話題になることの多かった表現に惜別の意味も込めて、本コラムに記してみました。
【NPB公式記録員 伊藤亮】