【記録員コラム】エンタイトル二塁打なのに・・・
広島のエルドレッド内野手が8月20日、マツダスタジアムで行われた広島対ヤクルト20回戦で5対5の同点で迎えた延長10回裏、2死二塁から中堅手の頭上を越すサヨナラの一打を放ちました。
その打球は外野フェンスの手前でバウンドしてスタンドに入りました。野球規則5.05(a)(6)には「フェアボールが、地面に触れた後、バウンドしてスタンドに入った場合、(中略)打者、走者ともに2個の進塁権が与えられる」とあります。エルドレッド選手の打球はいわゆる“エンタイトル二塁打”でしたが、当日の公式記録は「中越単打=シングルヒット」でした。理由はエルドレッド選手がサヨナラ勝ちを確信してか、二塁ベース手前で引き返し二塁ベースを踏まなかったからです。単打、長打決定の項の9.06(f)【注】には「走者二塁のとき、打者がバウンドでスタンドへ入るサヨナラ安打を放った場合、打者が二塁打を得るためには、二塁まで正規に進むことを必要とする」と、奇しくも今回のケースがそのまま記してあります。我々公式記録員はサヨナラの歓喜に沸くグラウンドを、打者走者がどのベースまで確実に踏むのかを冷静に見届ける任務があるのです。
今回サヨナラの場面は走者二塁でしたが、仮に走者三塁で打者が“エンタイトル二塁打”を放ち、正規に二塁まで進んだ時はどう記録されるのでしょうか。9.06(f)【注】の続きには「しかし、走者三塁のとき、打者が前記の安打(バウンドしてスタンドに入る)を放って二塁に進んでも、単打の記録しか与えられない」と、シングルヒットであることが明記されています。ご存知のように、最終回、打者がフェンス越えの本塁打を放ってサヨナラゲームになった場合は、打者および走者の得点全てが記録されますが、それ以外の安打で勝ち越し点をあげた場合は、打者には勝ち越し点をあげた走者がその安打で進んだ塁と同じ数だけの塁打しか記録されないのです。しかも、打者がその数だけの塁を触れることが必要となります。
打率は「安打数」÷「打数」で計算されるので、サヨナラの一打が単打でも二塁打でも変わりありません。しかし、スラッガーの指標ともなる長打率は「塁打数」÷「打数」で計算されるので反映されます。8月28日現在、セ・リーグの長打率1位は中日・ゲレーロ選手で.573。エルドレッド選手は.565でリーグ2位と射程圏ですが、今回のサヨナラ打で二塁ベースを踏んでいれば塁打数が「1」加算され長打率は.568となり、その差は縮まっていました。
「最高長打率者」はリーグのタイトル項目ではありませんが、日本野球機構発行のオフィシャルベースボールガイドには掲載され球史に名を残します。今回の塁打数「1」がどう影響するのか、終盤戦の長打率1位争いにも注目してください。
【NPB公式記録員 山本勉】