【コラム】現状維持は衰退。常に進化を求めて 2000安打に到達した内川聖一
王手をかけてから実に15打席目。待ち焦がれていた一打が、やっと飛び出した。5月9日の西武戦(メットライフ)の8回一死一塁。第4打席を迎えたソフトバンクの内川聖一は、この回から代わった武隈祥太のチェンジアップに逆らわずバットを出した。ライナー性の打球が二塁手の頭上を越える。その瞬間、内川は一塁ベンチのチームメートに向かって右腕を突き上げた。
常に意識してきた右方向へのバッティング。センター前への安打は史上51人目の通算2000安打となった。1800試合目での達成は歴代9位。右打者では史上3位のペースでの達成だった。
横浜(現DeNA)時代の2008年に右打者として史上最高の打率.378で首位打者、14年まで7年連続打率3割超えなど球界屈指の強打者だ。その打撃の真髄は秋山翔吾(西武)の言葉を借りれば「コースに対して何個もヒットゾーンがある打者という感覚」。センターを守る秋山にとって「一番守りづらい打者」の一人が内川だという。
「1度あったのは、アウトコースに対して体勢を崩されながら手を伸ばしてバットで拾った打球が三塁線を襲ったんです。その前のインコースへの投球を逆方向にカットしていたし、守っていて『センターから右だな』という感覚でいたのですが。流すタイミングでも引っ張った打球にでき、引っ張るタイミングでも流した打球にできるのはすごい」
高い打撃技術を保ち続けることができるのは、貪欲な向上心があるからだろう。年明けの自主トレは元陸上競技選手をパートナーに行ったが、内川は次のように語っていた。
「好奇心というか、自分がやったことがないことならやってみたいと思うタイプなので。今以上の自分を探すことは僕の永遠のテーマで、そこに気持ちが向くのは当たり前のことです」
現状維持は衰退――。
常に新しい刺激を自らに与えながら自己研さんに励んできたからこそ、大記録に到達することができた。
ただ、「個人的なことはなるべく早く終わらせて、チームのことに向かって行きたい」が本音だった。「ここまで四番という立場からすると、完全に物足りない数字になっている。頑張らないといけません」と気を引き締める。
2000安打より欲しいもの――“連覇”という勲章を手に入れるために、35歳のベテランは目の前の打席に集中していくだけだ。
【文責:週刊ベースボール】