【記録員コラム】三振=アウトではない!?
2018年5月4日、楽天対西武7回戦(楽天生命パーク)において、楽天の松井裕樹投手が、9回表にイニング4奪三振を記録しました。これはプロ野球において21度目です。どうして1イニングに4つ三振が奪えるの?と思われる方がいるかもしれません。まず三振とは、球審が打者にストライクを3回宣告したときに記録されます。しかしながら、三振=アウトとは限りません。<野球規則5.09 a 打者アウト>には下記の記載があります。
(2)第3ストライクと宣告された投球を、捕手が正規に捕球した場合。
また、<野球規則5.05 a 打者が走者となる場合>には下記の記載があります。
(2)(A)走者が一塁にいないとき、(B)走者が一塁にいても2アウトのとき、捕手が第3ストライクと宣告された投球を捕らえなかった場合。
この2つの規則を解釈すると、第3ストライクと宣告された投球を捕手が捕球できなかった場合、打者は走者となり、一塁に触れる前にその身体または一塁に触球されなければアウトにはならない、ということになります。(ただし0アウトまたは1アウトで一塁に走者がいるときは第3ストライクが宣告された時点で打者アウト。)
打者が一塁に生きたならば、三振と暴投、または三振と捕逸、あるいは三振と失策のいずれかを公式記録員が判断して記録することになります。このうち三振と失策を記録する例としては、捕手が投球を拾い直し、一塁への送球がよければ打者走者をアウトにできたと記録員が判断したときに、捕手が悪送球をしたために打者走者を生かした場合が挙げられます。
最初に述べた松井投手のイニング4奪三振のときは、2つの三振を奪った後、源田壮亮選手への第3ストライクの投球が低すぎて捕手が止めることができず、一塁に生きたため三振と暴投が記録され、さらにその後の打者からも三振を奪い、1イニングに4奪三振を記録しました。
ちなみに、二軍公式戦においては2010年5月8日、楽天対日本ハム4回戦(利府)で、楽天の木谷寿巳投手が7回表にイニング5奪三振を記録しました。このときは5人の連続した打者に対し、空三振、三振と暴投、空三振、三振と暴投、空三振でした。一軍公式戦では1イニングに5奪三振を記録した投手はおらず、一二軍合わせたプロ野球においてイニング5奪三振を記録したのは木谷投手ただ1人であり、おそらく今後も記録されることはなかなか難しいであろうとても珍しい記録と言えます。
なお、三振と暴投や捕逸が記録される場合、いわゆる「振り逃げ」と言われているかと思いますが、見逃しストライクだとしても、その投球を捕手が正規に捕球できなければ、打者は走者となって一塁に生きる可能性があります。先に述べた2つの規則の中には、「第3ストライクと宣告された投球」とあり、空振りか見逃しかは書かれていないからです。バットを振っていなければ「振り逃げ」は成立しないと勘違いされている方が意外に多いと感じるので、補足させていただきます。
野球観戦をしていて、いわゆる「振り逃げ」があると、守備側のチームを応援している方からすると、せっかく三振を奪ったのに、と思われるかもしれません。しかしその時は実はイニング4奪三振、はたまたイニング5奪三振の一軍公式戦では初となる珍しい記録の誕生を目の当たりにするチャンスですので、そういった楽しみがあってもいいのではないでしょうか。
【NPB公式記録員 伊藤亮】