【記録員コラム】実は難しい打点の判断
2018年8月7日、オリックス対西武 15回戦(京セラドーム大阪)において、西武の中村剛也選手が2回表に2点本塁打を放ち、通算1000打点を達成しました。これはプロ野球45人目の記録であり、2000安打の達成者51人よりも少なく、達成の難しい記録の一つであると言えます。
安打は、打者が安全に塁に達し、それを公式記録員が安打と判断することで記録されるので、基本的には自分が打つか打たないかで数字を積み重ねることができます。それに対し打点は、本塁打を放つ以外はまず塁上に走者がいなければ記録できず、さらには走者の走力や守備側のシフト等、その時の状況に影響を受けることになります。
ただし打点は必ずしも安打でなくとも、犠打や犠飛、はたまた内野ゴロといった凡打であったとしても稼ぐことができるのも特徴と言えます。詳しくは公認野球規則9.04に記載があるので、以下に要約します。
9.04 打点(抜粋)
- (a)次の場合には打点を記録する。
- (1)打者が、失策によらず、安打、犠牲バント、犠牲フライ、または内野のアウトおよび野手選択によって走者を得点させた場合。
- (2)満塁で、四球、死球、妨害および走塁妨害によって打者が走者となったために、走者に本塁が与えられて得点が記録された場合。
- (3)0アウトまたは1アウトで、打者の打球に対して失策があったとき三塁走者が得点した場合は、その失策がなくても、走者は得点できたかどうかを確かめ、失策がなくても得点できたと認めれば、打者には打点を与える。
(1)は記載の通りでわかりやすいと思います。内野のアウトおよび野手選択の例としては、一死三塁で内野ゴロを打ち、野手が一塁へ送球して打者走者をアウトにする間に三塁走者が得点した場合と、野手が本塁へ送球するもミスプレイなくセーフとなった場合、などが挙げられます。
(2)は、いわゆる押し出しです。妨害でまれにあるパターンとしては、打者がスイングしようとした際、捕手がミットでバットに触れてしまったような場合、捕手の妨害として打者に一塁が与えられるのですが、満塁であれば死球と同じく押し出しとなり、打者には打点が記録されます。
難しいのは(3)です。ここで突然ですが皆さんに問題を出します。
【問】一死一、三塁で打者は三塁へのゴロを打つ。三塁手はこれを後逸し、記録は失策。さて、打者に打点は記録されるかどうか?
答えは、「状況判断による」です。
いじわる問題ですみません。このような場合、三塁走者、および三塁手の動きや位置から、公式記録員が打者に打点を与えるかどうかを判断します。三塁手がもし捕球し本塁へ送球していたとしても、三塁走者のスタートや位置からして本塁はセーフだったと見れば打点を記録します。逆に本塁はアウトだったと見た場合や、そもそも三塁走者が三塁手の後逸を見てから本塁へ向かったのであれば、打点はなしです。これは投手の非自責点になります。
また、このケースでは一死一、三塁なので、三塁手は一塁走者と打者走者の併殺を狙うことも考えられます。三塁手が予め併殺狙いで明らかに三塁後方に守備していて打球を後逸した場合は、三塁手は捕球していたら二塁へ送球していただろうと判断すれば打点を記録します。記録員は原則、一つのプレイで二つのアウトが取れただろうとは考えないので、併殺が完成していたとは見ずに、一塁走者の二塁封殺の間に三塁走者が得点したと見るからです。
さらには、三塁手が本塁送球か二塁封殺のどちらにも対応できるような位置に守備していて、三塁手が明らかに二塁送球の姿勢を見せながら落球した場合には、たとえ三塁走者が本塁へスタートしていなかったとしても、打点を記録することもあります。
同じ一死一、三塁でも、ここで挙げただけでもこれだけのパターンがあり、様々な要因によって、公式記録員が打点かどうかを判断します。よって、問題の答えが、「状況判断による」であったこと、少しご理解いただけたでしょうか。
ここで一つ、打点に関する珍しいプレイがあったので紹介します。
2018年7月31日、中日対阪神 14回戦(ナゴヤドーム)の3回裏、中日の大島洋平選手が「2ラン犠飛」を記録しました。これは一死満塁で大島選手が中堅やや後方への飛球を放ち、中堅手の俊介選手が姿勢を崩しながら捕球しました。三塁走者は余裕で本塁へ、さらに二塁走者の京田陽太選手は二塁から一気に本塁へ生還、というプレイです。守備側は姿勢を崩しながら捕球、その後も悪送球などはなく、失策と言えるミスプレイはなかった為、まさに先述の野球規則9.04(a)(1)に該当し、打点2が打者に記録されました。
最後に、これら打点などの様々な状況判断をするためには、ボール、守備者、走者の動きを同時に見なければなりません。よって、公式記録員は実際に試合が開催される球場にて、グラウンド全体が見渡せる位置で記録を付けています。皆さんも球場へ行かれた際には、これらのことを意識してグラウンド全体を見てみるのはいかがでしょうか。
【NPB公式記録員 伊藤亮】