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【記録員コラム】「オープナー」を記録の視点で考えた

 昨シーズンMLBで話題になり一気に認知された戦術に「オープナー」があります。これはタンパベイ・レイズが本格的に導入した投手起用法です。簡単に説明すると、先発に救援専門の投手を起用し1~2回の短いイニングを投げさせたあとに、本来の先発投手をロングリリーフさせる戦術です。一番から始まる好打順を救援投手が全力投球で抑え、少しでも長いイニングを投げさせたい本来の先発投手を立ち上がりの負担が少ない下位打線から登板させるというのが作戦の主旨であるとされています。日本でもオープナーに関して意欲的なコメントをする投手も出てきたので、今シーズンのNPB公式戦で「オープナー」の投手起用が見られる可能性は大いにあると思います。そこで「オープナーを起用=先発投手が5回未満で降板」に関して、記録(投手成績)の視点から考えてみました。

 現在、勝・ホールド・セーブはそれぞれ規定があり、その数字を積み重ねることが防御率と併せて投手を評価する基準になっています。近年セイバーメトリクスという評価基準が取り上げられるようになってきましたが、まだ一般的にはこの4部門の数字が投手の評価を決めていると言っていいでしょう。
 ところが、先発して5回を投げきらないことが前提のオープナーは、敗戦投手になることはあっても勝・ホールド・セーブはいずれも記録されません。オープナーとして固定された起用でどれだけチームの勝利に貢献しても公式記録上は0勝X敗0S0Hということになってしまいます。したがって今後オープナーが通常の戦略のひとつとして広く認知されて投手分業制に組み込まれれば、新しい評価基準としてセーブ・ホールドと同様に指標を作るためのルールが定められるでしょう。そして公式記録として「○○投手20オープナー」のようになっていくのではないかと思われます。

 次に、オープナーが降板してからの2番手以降の投手成績について考えてみます。

 勝利投手について。先発投手が5回未満で降板するので、勝利投手の決定が難しくなるケースがあります。この場合オープナー以外の投手から勝利投手を決めるわけですが、基本的には「任務中のリード」(チームが勝ち越した時に投げている)が最優先されます。一方、オープナーの任務中にリードを奪いそのまま勝利した場合には「投球内容の検討」になります。(「【記録員コラム】勝投手はだれ?」も併せてお読み下さい)
 セーブ・ホールド(いずれはオープナーも)は投手分業制の中でその投手に求められた役割をきちんと果たした時に記録される数字ですが、そもそも「勝」は偶然性が伴っている数字です。試合開始から登板し「先発投手として15勝」というのであればそれなりの価値も見出だせますが、オープナーの出現はその概念を崩すものになるのかもしれません。求められている役割とリンクしていない形でも数字が付く「勝」の価値は今よりさらに低いものになってしまう可能性があります。

 セーブについては、オープナーによりロングリリーフの起用が増えると想定すると、セーブにおいて一つの記録が更新される可能性が高まると考えられます。

1978.9.10 日本ハム-阪急 12回戦(後楽園)
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
阪急 1 1 0 2 1 0 0 0 0 5
日本ハム 1 0 0 0 1 0 0 0 0 2
投手 投球回 失点
佐藤義 0.1 1
三枝 4 1
S 山口 4.2 0

 この試合、先発投手が5回未満で降板し、二番手・三枝規悦投手の任務中にチームがリードを奪い、そのまま勝利したので勝利投手は三枝投手になりました(事情はどうあれ、見かけはオープナー的な継投になっています)。
 日本では、2004年までは「出場した救援投手(任務中にリードした投手含む)の投球回数に1回以上の差があった場合は多く投げた投手に勝利投手を与える」という運用をしていたので、救援投手が登板時のリードを保ったまま5イニング以上投げると自動的に勝利投手になりました。つまり2004年までの理論上の最長イニングセーブは4回2/3で、かつ上記の試合のような継投と試合経過でないと完了投手にはセーブは付かず勝利投手になっていたのです。先発投手が5イニング投げて勝利投手、二番手投手が4イニング投げ切ってセーブのような4イニングセーブは過去多数あるのですが、4回1/3以上投げてセーブを記録したのはセ・パ通じてこの山口高志投手のケースが唯一です。この記録が現在のNPB最長イニングセーブになっています。
 MLBにならい2005年から運用を変えて「任務中のリード」が最優先されるようになった現在の勝利投手決定方法だけでも山口投手の記録を更新する可能性はありましたが、オープナーの起用で先発投手が5回を投げずに降板する機会が増えることになれば、この最長イニングセーブの更新は時間の問題となるでしょう。
 参考までにMLBでは、2014年ワールドシリーズ第7戦で、3―2の5回から三番手で登板して5イニングを無失点に抑え、当初勝利投手と発表された後にセーブに変更されたサンフランシスコ・ジャイアンツのバムガーナー投手の件が記憶に新しいですが、レギュラーシーズンでいうと2002年にテキサス・レンジャーズのホアキン・ベノワ投手が7イニングセーブを記録しています(なお、この試合の先発は2005年に楽天イーグルスでもプレーしたアーロン・マイエット)。

2002.9.3 オリオールズ-レンジャーズ(カムデンヤーズ)
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
レンジャーズ 0 3 1 0 0 3 0 0 0 7
オリオールズ 0 0 0 0 0 0 0 0 1 1
投手 投球回 失点
マイエット 0+ 0
バンポッペル 2 0
S ベノワ 7 1

 また、NPBの一軍では前述の通りまだ5イニング以上セーブは記録されていませんが、イースタン・リーグで2014年にDeNAの三嶋一輝投手が6イニングセーブを記録しています。

2014.8.23 巨人-DeNA 15回戦(ジャイアンツ)
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
DeNA 0 0 1 2 4 1 0 4 1 13
巨人 0 0 2 0 0 0 0 0 0 2
投手 投球回 失点
尚成 2 0
安部 1 2
S 三嶋 6 0

 以上、オープナーを記録の視点で考えてみました。なるべくわかりやすく書いたつもりですが、今回はいつも以上にかなり難しい話になってしまったかもしれません。でも、このような面白い記録を知ることで少しでも野球の記録の奥深さに興味を持っていただければと思います。

【NPB公式記録員 藤原宏之】