【記録員コラム】ボールデッドを制する者はスコアを制す
少しずつ、春の訪れを感じられるようになってきました。プロ野球も3月29日に開幕し、さらにはプロ野球だけでなく、公式な野球大会から草野球まで、全国各地で非常に数多く野球の試合が開催されるかと思います。野球の試合が行われるということは、それだけスコアを付ける人もたくさんいることでしょう。その中には、野球のスコアを付けるのは難しいと感じられている方もいるのではないでしょうか。
野球のスコアを付けたことがある方であれば、例えば「選手交代が多くて記入が追いつかない」、「複雑なプレイが起きてどう記入したらいいのかわからない」、「試合が長くて集中力が続かない」といった経験があるかもしれません。そんな問題を少しでも解決できるかはわかりませんが、私から一つだけスコアを付けるコツをお伝えするならば、それは「ボールデッドを覚える」ということです。
ではまず、「ボールデッド」とはどういうことでしょうか。公認野球規則には下記の記載があります。
5.01 試合の開始
(b) 球審が「プレイ」を宣告すればボールインプレイとなり、規定によってボールデッドとなるか、または審判員が「タイム」を宣告して試合を停止しない限り、ボールインプレイの状態は続く。
5.06 (c) ボールデッド (要約。各項それぞれに例外もあります。)
次の場合にはボールデッドとなり、走者は1個の進塁が許されるか、または帰塁する。その間に走者はアウトにされることはない。
(1)ヒットバイピッチ(死球)
(2)球審が捕手の送球動作を妨害した場合
(3)ボーク ※
(4)反則打球
(5)ファウルボール
(6)フェアボールがフェア地域で走者または審判員に触れた場合
(7)投球が、球審か捕手のマスク、または用具に挟まって止まった場合
(8)正規の投球が、得点しようとしている走者に触れた場合
※ボークにもかかわらず、打者が安打などで一塁に達し、かつ、他のすべての走者が少なくとも1個の塁を進んだときには、プレイはボークと関係なく続けられるため、ボークの宣告があった瞬間にボールデッドになるとは限らない。
簡単に言うならば、ボールデッドとは「プレイが無効な状態」のことです。例えば走者一塁で打者の打球がファウルボールとなった後、球審が「プレイ」を宣告する前に投手が一塁へ送球して走者にタッグしたとしてもそれは無効であり、アウトにされることはない、ということになります。
ボールデッドの間は「プレイが無効な状態」なので、スコアに記入するようなことはまず発生しません。つまりボールデッドの間は、ボールや選手の一挙手一投足までを追う必要はないわけです。ですからこの間を有効に活用し、「追いつけなかった選手交代を記入する」、「ルールブックを確認する」、「集中力持続のために深呼吸をする」といった作業を必要に応じて行うことができます。そして、球審が「プレイ」を宣告する前に再びグラウンドに注目する、という作業の繰り返しで、スコアを仕上げていくことができます。
これが先ほど「ボールデッドを覚える」と申し上げた意味です。逆に言うと、ボールインプレイ中はグラウンドから目を離さないということが大前提となります。
野球のルールは細かく複雑で難しく、全てを覚えることは容易ではありません。その中で、試合のスコアを付けることがあるという方は、まずボールデッドを意識する、ということをしてみてはいかがでしょうか。前述の公認野球規則5.06 (c) ボールデッドには8つの項目がありましたが、まずは死球、ボーク、ファウルボールの3つと、審判員が「タイム」を宣告した場合、と覚えておくのがいいと思います。(細かい例外はあります。ちなみに四球はボールインプレイです。)
これらを意識したらスコアを付けるのが少しでも難しくなくなったというお声が聞こえてきたらと思い、今回のコラムを書きました。
【NPB公式記録員 伊藤亮】