【記録員コラム】2個の塁が与えられるとき
2019年4月21日、甲子園での阪神対巨人6回戦において、珍しいプレイがありました。4回表無死一塁で巨人の岡本選手の打球はショートへのゴロとなり、遊撃手は二塁へ送球するも一塁走者は投球と同時にスタートをきっていたためセーフとなります。記録はFc、野手選択です。さらに送球を受けた二塁手は一塁へ送球しますがこれが悪送球となり、一塁側ベンチに入ったため、その時点でボールデッドとなりました。
さてこのケース、一塁走者と打者走者はどの塁への進塁が与えられるでしょうか。即座にわかった方はかなりの野球ルール通です。
正解は、両走者共に2個の塁が与えられ、一塁走者は本塁へ進み得点、打者走者は二塁へ進みます。
ちょっと待ってください、一塁走者に2個の塁が与えられるなら本塁じゃなくて三塁への進塁じゃないですかと思われるかもしれないですが、ここで重要なのが、各走者のどの時点での位置を基準として進塁が与えられるか、ということです。公認野球規則5.06 b 4(G)には下記の記載があります。
公認野球規則5.06 b 4(G) (要約)
送球が、スタンドまたはベンチに入った場合、2個の塁が与えられる。
審判員は2個の進塁を許すにあたって、次の定めに従う。すなわち、打球処理直後の内野手の最初のプレイに基づく悪送球であった場合は、投手の投球当時の各走者の位置、その他の場合は、悪送球がなされたときの各走者の位置を基準として定める。
つまり、先ほどのケースでは、ベンチに入る悪送球をしたのは打球を処理した遊撃手から送球を受けた二塁手ですので、打球処理直後の内野手の最初のプレイではなく、上記後段のその他の場合に該当します。ですから、二塁手の悪送球がなされたとき、一塁走者はすでにセーフで二塁に到達していたため、二塁を基準として2個の進塁が与えられ、本塁へ得点ということになりました。
なお、各走者のどの時点での位置を基準とするかについて、野球規則には下記の規則説明があります。
″悪送球がなされたとき″という術語は、その送球が実際に野手の手を離れたときのことであって、地面にバウンドした送球がこれを捕ろうとした野手を通過したときとか、スタンドの中へ飛び込んでプレイから外れたときのことではない。
前述のケースでもし仮に、遊撃手が二塁へ送球せずに最初から一塁へ送球して悪送球となってベンチに入ったならば、それは打球処理直後の内野手の最初のプレイに該当するので、投球当時の各走者の位置を基準として2個の塁が与えられることになり、一塁走者は三塁、打者走者は二塁への進塁が許されることになります。
ご理解いただけましたでしょうか。草野球などで内野ゴロに悪送球があったとき、よく「テイクワンベース」という声で走者二塁というケースを耳にしますが、正確には投球当時の走者の位置を基準として「テイクツーベース」で走者二塁ということになります。ぜひ実践、拡散していただければ、野球規則の振興となり、私は公式記録員としてうれしい限りです。
【NPB公式記録員 伊藤亮】