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【コラム】ケガから復活し1年1カ月ぶりの勝利 中日・小笠原慎之介の揺るがない信念

 小雨降る中での熱投だった。今季の2度の登板は好投し、ゲームを作っても白星を手にできなかった。もう後がない――。「今回がラストチャンス」。中日の小笠原慎之介は自らを追い込み、左腕を振った。

 8月28日の甲子園での阪神戦。気迫は投球だけに乗り移ったわけではなかった。1回裏、無死一塁。近本光司が放った打球が小笠原の顔面付近を襲った。懸命にかわしながら、鋭い打球をそのグラブでつかみとった。与田剛監督が「ああいう打球が捕れるのは、投げ終わった後のバランスがいいから、しっかり捕れると思う」と絶賛したプレー。これで勢いに乗った。

 食い下がろうとする阪神打線に対して真っすぐを軸にねじ伏せ、6回2/3を3安打無失点の好投。東海大相模高時代に頂点に立った聖地で、1年1カ月ぶりとなる白星を手にした。「野手のみなさんに助けていただきました。なんとか粘れたので、次につながる投球だったと思います」。謙虚に話したが、その顔からはようやく笑みがこぼれた。

 長く、そして険しい復活ロードだった。昨年9月、『左肘遊離体除去術及び左肘頭形成術』を受けた。あくまで今季開幕に照準を合わせ、シーズン中に手術に踏み切った。しかし、その後の肘の状態は一進一退の状況。その上、左肩にまで痛みが襲うときもあった。「明日、痛みが出たらどうしようとか、投げられなくなったらどうしようとか、不安はある。今まではそんなことなかったけど……」。過去にも故障に悩まされたことはあった。しかし、今回はうずまく不安、恐怖との闘いを強いられていた。

 時を同じくして、チームも下位に低迷していた。責任感、焦りを感じないほうが無理はあった。それでも与田監督はじめ小笠原道大二軍監督などは、とにかく完治を最優先させるために、じっくりと待ってくれた。だから、小笠原も「急ぎながらも、焦らずにやりたい」と言えた。復帰間近になると、「僕は本当に周りの人に恵まれていると思います」と、感謝の言葉が自然と口から発せられた。

 一軍復帰戦となったのは8月10日。その登板の少し前のことだった。小笠原は「以前の姿には戻っていない。新しい自分になったと思っています」と口にした。実際、手術前の投球フォームに戻そうかと迷ったこともあった。以前のフォームなら、ある程度やれる自信もあった。しかし、「それでケガもしている。ハイリスク、ハイリターンをとるのか。ローリスク、ハイリターンができるのか、ハイリスク、ローリタンなのか。いろいろ考えます」と言い、変化を選んだ。左腕をやや下げ、力感のないフォームで浮上を目論んでいる。

 ただ、速球へのこだわりは不変だった。「新しい自分でも、速球派のピッチャー。速球派のピッチャーのトップに立ちたい」。威力ある真っすぐを軸に、力で向かっていく。一軍に戻ってからも、その信念は揺らぐことはなかった。

 与田監督は故障明けの小笠原の体調を考慮し、球数を100球以下と決して無理させない考えでいる。実際、今は完全復活へ向けて、まだ道半ばである。まだまだこんなものではない。来季、そしてさらに先の未来へ向け、小笠原は歩を進めている最中である。

【文責:週刊ベースボール】