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【コラム】球界に賛否が巻き起こったマウンド。巨人・増田大輝が持つ険しい道を切り開いた強さ

 物議を醸したさい配だった。8月6日の阪神戦(甲子園)。0対4で迎えた8回裏、巨人ベンチはマウンドに堀岡隼人を送った。しかし、これが大誤算。中谷将大に満塁弾を浴びるなど一死を取ったのみで7失点を喫して0対11と点差が開き、勝負はほぼ決してしまった。堀岡をあきらめた巨人ベンチが代わりにマウンドに送ったのが内野手の増田大輝だった。ベンチにはまだ4投手が控えていたが、いずれも接戦や勝ちパターンで起用される投手。今季は新型コロナウイルス感染拡大の影響で120試合制になったが、6連戦が続く過密日程が組まれている。巨人ベンチは先を見据えて投手を温存し、増田大を登板させたのだ。高校時代にマウンド経験があるとはいえ、このさい配にOBをはじめ球界関係者から賛否両論が巻き起こった。

 メジャー・リーグでは稀にある起用法だが、日本球界ではまだなじみがない。ゆえに“アレルギー反応”を起こすOBもいたわけだが、ここではその是非は問わない。それよりも、しっかりと仕事を果たした増田大は見事だった。近本光司を二ゴロ、江越大賀には四球を与えたが、大山悠輔を右飛に仕留めて試合をこれ以上壊すことはなかった。「いい経験をさせてもらいました。甲子園で投げられて、うれしくなりました」と振り返った増田大。だが、その笑顔の裏には険しい道を切り開いてきた男の強さがある。

 小松島高時代に甲子園出場は叶わなかった。高校卒業後、近大へ進学も2年時5月に中退。その後は地元・徳島の建設会社でとび職に就いた。半年が経った2013年秋、周囲の勧めで四国ILの徳島で野球を再開。独立リーグ選抜に入るなど注目され、15年10月のドラフトで育成1位指名を受けて巨人に入団した。同年2月に結婚した妻と9月に誕生した長男を、妻の実家がある徳島・阿波市に残し、「まずは家族を養えるお金を稼がないといけない」と単身で上京し、プロの世界に飛び込んだ。支配下登録されたのは17年7月。19年4月19日に念願の一軍初昇格を勝ち取り、同日の阪神戦(甲子園)で8回から遊撃守備に就き、プロ初出場。中継プレーで走者を刺すなど持ち前の守備力を発揮し、原辰徳監督からは「迷いのないというか竹を割ったような素晴らしいプレーです。初めて一軍でプレーしたとは思えない」と絶賛された。

 一軍デビューした昨季はチームトップの15盗塁もマーク。今季はその能力がさらに洗練された。7月19日のDeNA戦(横浜)では1点を追う9回一死で、坂本勇人が内野安打で出塁すると、原監督はすかさず「代走・増田大」を告げる。50メートル5秒9を誇る韋駄天は、まず二盗を成功させると、次のプレーが真骨頂。「2アウトで、2ストライク。ストライクゾーンに入った瞬間に、もうスタートを切りました」。二死から丸佳浩が一、二塁間深くにゴロを打ち返すと、一気に三塁を蹴って、本塁へヘッドスライディング。クロスプレーでリクエストになったが、捕手よりわずかに先に左手が本塁ベースをかすめて試合を振り出しに戻した。

 代走が主な役どころながら8月10日現在、リーグ2位の9盗塁をマーク。“職人気質”のワキ役が思わぬ形で注目を浴びてしまったが、連覇を目指す巨人のなかで、背番号0が欠かせない存在なのは間違いない。これからも与えられた役割を全力でこなし、チームの勝利に貢献していくだけだ。

【文責:週刊ベースボール】