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【記録員コラム】ホームランを打たれたのに自責点なし!?

 2020年8月11日、ソフトバンク対オリックス7回戦(PayPayドーム)の5回表、オリックスはT-岡田選手の満塁本塁打などで一挙6点を奪いました。ソフトバンクの先発は千賀滉大投手で、この試合における投手成績は下記の通りです。

 投球回数6 失点6 自責点0

 満塁本塁打などで6失点したにも関わらず、自責点が0なのはなぜ?という声が私の元にいくつも聞こえてきましたので、今回のコラムではこれを解説したいと思います。

 野球のスコアに少しでも興味のある方であれば、失策によって出塁した走者が得点した場合や、塁上の走者が失策によって得点した場合、投手の自責点にはならないということはなんとなくご存知の方も多いと思います。ではそもそも自責点とはどういうものでしょうか。野球規則に下記の通り記されています。

9.16 自責点・失点
自責点とは、投手が責任を持たなければならない得点である。

 また、投手成績の一つである防御率は、現在は下記の計算式により、失点ではなく自責点を基に算出されます。

防御率=自責点×9÷投球回数

 つまり投手は、失点ではなく自責点が増えれば防御率が悪化することになります。逆に言えば、失点してもそれが自責点でなければ防御率は悪化しません。先の千賀投手の場合、6失点したにも関わらず自責点は0でしたので、この日は防御率が悪化するどころか、むしろ投球回数が6増えたのでそのぶん防御率は良くなりました。

 それでは本題です。なぜ千賀投手の自責点は0だったのでしょうか。自責点を考えるにおいて、野球規則には下記の記載があります。

9.16 自責点・失点 (a)
 自責点は、安打、犠牲バント、犠牲フライ、盗塁、刺殺、野手選択、四球(故意四球も含む)、死球、ボーク、暴投により、走者が得点するたびごとに記録される。ただし、守備側が相手チームのプレーヤーを3人アウトにできる守備機会をつかむ前に、前記の条件をそなえた得点が記録された場合に限られる。

9.16 自責点・失点 (a)【注1】 抜粋、要約
 “攻撃側プレーヤーをアウトにできる守備機会”とは、守備側が打者または走者をアウトにした場合と、失策のためにアウトにできなかった場合とを指し、以下これを「アウトの機会」という。

9.16 自責点・失点 (a)【注2】 抜粋、要約
 自責点に含んでならない要素は、守備失策、捕手または野手の妨害、走塁妨害、捕逸、ファウルフライ失である。
 上記の要素で一塁に生きたり、または本塁を得た場合はもちろん、二塁、三塁を進むにあたっても、上記の要素に基づいた場合には、自責点とはならない。

 これらを踏まえて、5回表のオリックスの攻撃を見ていきます。

2020年8月11日 ソフトバンク対オリックス7回戦(PayPayドーム)5回表
安達 無死 二ゴロ失策 → アウトの機会1度目
若月 無死 一塁 中前安打
山足 無死 一二塁 遊ゴロ失策 → アウトの機会2度目
福田 無死 満塁 二ゴロ(打点1) → アウトの機会3度目
吉田正 一死 一三塁 左前安打(打点1)
ジョーンズ 一死 一二塁 四球
T-岡田 一死 満塁 右中間本塁打(打点4)
ロドリゲス 一死 三ゴロ
西村 二死 空三振

 1点目、安達選手の得点は、失策により一塁に生きた走者のため、自責点にはなりません。
 2点目、若月選手の得点は、山足選手の遊ゴロから送球を受けた二塁手の失策により二塁でのアウトを免れた走者のため、自責点にはなりません。
 3~6点目、T-岡田選手の満塁本塁打による4得点は、この回にアウトの機会が既に3度あった後の得点であり、アウトの機会が3度目より前の得点という自責点の条件をそなえていないため、全て自責点にはなりません。

 これらの要素により、千賀投手のこの回の自責点は0となりました。蛇足ですが、アウトの機会が3度あった後は、何失点しようとも、自責点とはなりません。(ただしイニング途中で投手交代があった場合は除きます。)

 ご理解いただけたでしょうか。今回と同様に、アウトの機会が3度あった後に本塁打を打たれ、自責点が0となったケースを下記に紹介しますので、よりご理解を深めていただけたらと思います。

2020年9月6日 ヤクルト対中日15回戦(神宮)8回裏

岡田投手 投球回数1 失点3 自責点0

西浦 無死 左越本塁打(打点1)
中村 無死 左線二塁打
中山 無死 二塁 三ゴロ → アウトの機会2度目
塩見 一死 二塁 中前安打も二塁走者が本塁で走塁死 → アウトの機会3度目
廣岡 二死 一塁 中越本塁打(打点2)
宮本 二死 中前安打
村上 二死 一塁 投ゴロ

 これを見て、この回の先頭打者の西浦選手の本塁打は自責点と思った方は鋭いです。しかしながら実は本塁打の1球前、捕手がファウルフライを落球し、ファウルフライ失策が記録されました。ファウルフライ失策は自責点に含んでならない要素ですから、その後に本塁打を打ったとしても、自責点とはなりません。さらに、アウトの機会が1度あったと考えるので、その後の中山選手の三ゴロでアウトの機会は2度目ということになります。ですから廣岡選手の2点本塁打はアウトの機会が3度あった後ということになるので、この回の岡田投手の自責点は0ということになります。

 今回のコラムでは、自責点について少し、説明させていただきました。“少し”と申し上げたのは、自責点はとても奥が深く、今回の例は難しく感じられた方も多いかもしれませんが、ほんの触りの一部に過ぎないからです。例えばイニング途中に投手交代があると、失点や自責点の考え方は複雑さを増し、我々公式記録員にとっても勉強の日々です。またの機会に少しずつでも紹介していければと思います。

【NPB公式記録員 伊藤亮】

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