【コラム】西武に出現した新スピードスター、初回に強い打撃が魅力の若林楽人
驚異の快足ぶりを披露しているのが西武のドラフト4位ルーキー・若林楽人だ。圧巻だったのは5月22日の日本ハム戦(メットライフ)。初回に四球で出塁すると、すかさず二盗。スパンジェンバーグの3ランで3対1と逆転した5回には一死から左前打を放つと、再び二盗を成功させ、さらに2点を追加する呼び水に。7回二死二塁では相手の虚を突き三盗も決めた。打席には中村剛也が立っており、「四番バッターなのに盗塁しちゃうし」と辻発彦監督は苦笑いしたが、積極走塁はチームに勢いを与えて8対1の勝利に貢献した。この試合の3盗塁で、両リーグ最速で20盗塁に到達。60個を超えるペースで盗塁を積み重ねているが、「謙虚に、これからも走り続けられればいいなと思います」と若林は貪欲に前だけを見据えている。
実家は北海道・白老町の浄土真宗本願寺派の眞證寺。「楽人」という名前は、日本の古典音楽の雅楽における指揮者を意味している。白老中、駒大苫小牧高、駒大の最終学年では主将を務めたが、自身の名前の由来について若林はこう話していた。「(楽人は)先頭に立って引っ張る、みたいな感じです。自分はキャプテンをやったり、責任を持つことが好きです。人としてリーダーシップを持っていることは魅力だと思うので、大事にしています」。住職の父は西武ファンで、自身も子どものころ、西武で活躍していた中島宏之(現巨人)にあこがれていたという。そのなじみのある球団に昨秋、ドラフト指名されて入団した。
50メートル走5.8秒、遠投125メートルを誇るなど抜群の身体能力に辻監督は獲得が決まったときから「面白そう」だと注目していたが、A班キャンプに抜てきされると猛アピール。「攻守走三拍子のレベルが高く、バランスが取れている」というセールスポイントをしっかりと印象付けた。そのまま見事に開幕一軍入りを勝ち取ると、主力にケガ人が続出したチーム状況もあり、スタメンに名を連ねるように。4月中旬からはトップバッターでの出場も増えてきたが、積極打法が身上の若林にとって適任だ。一番打者としての成績は106打数29安打、打率.274、出塁率.336だが、初回に限ると25打数8安打、打率.320、出塁率.370と数字は上がる。二塁打を3本放っているのも魅力。初回からチームのムードを高める役割が求められる先頭打者として理想的と言ってもいいだろう。
駒大OBで西武新人時代に一番を打った先輩・石毛宏典氏も後輩にエールを送る。「崩れた打ち方はしていないですし、プロのストレート、変化球に対して、それなりに対応しているな、と。逆方向へもしっかりと打っていますしね。こんなに盗塁できると思ってもいなかったですし、想像以上の活躍です」。さらに、ひと回り大きくなるための注文も加えた。「三振は多いですが、ガムシャラに来たボールを打っている状況なんでしょう。私も新人時代は同様でした。それが自分のポテンシャルを十分に発揮できる。でも、そういった中でも追い込まれたらバットを短く持って、粘って四球を勝ち取るといったことも必要になってきます。そうすればもっと出塁率も上がっていくはずです」。
攻守走で魅了するスピードスター。ライバルは多いが、新人王獲得のチャンスもある。若獅子がこの1年でどこまで成長を果たすか非常に楽しみだ。
【文責:週刊ベースボール】