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【球跡巡り・第64回】世界に誇る二刀流・大谷翔平を育んだ 岩手県営野球場

 多くの球史を刻んだみちのくの野球場がこの春、その使命を終えます。岩手県盛岡市にある岩手県営野球場。エンゼルスの大谷翔平選手や、千葉ロッテの佐々木朗希投手らが高校時代その名を全国に知らしめた舞台は、彼らの活躍で侍ジャパンがWBCで14年ぶりに世界一奪還を果たした3月22日(日本時間)から9日後の31日、50余年の歴史に幕を下ろしました。

 JR盛岡駅から北東へ4キロメートル。遠くに岩手山を望む市内三ツ割に球場が完成したのは1970年。第25回岩手国体の開催に合わせて造られました。初のプロ野球開催は同年7月4、5日のヤクルト対大洋2連戦でした。岩手県内では14年ぶりの公式戦とあり、東北本線を走る特急「はつかり」で来県した主催球団のヤクルトは、盛岡駅前広場からオープンカーでパレードの歓待を受けました。

 昭和の時代には仙台市の県営宮城球場(現楽天モバイルパーク宮城)とともに東北を代表する野球場として、日米大学野球選手権などの国際試合を開催。東日本大震災後の2012年には復興オールスターゲームも行われました。のちに米大リーグに渡る名選手も球史を彩ります。1996年6月25日には当時22歳だったオリックスのイチロー外野手が初登場。「振り子打法」で巧みに安打を放つスター選手のプレーにファンが沸きました。10年後の2006年4月21日の楽天対西武戦では、西武の松坂大輔投手が試合開始前の気温が1ケタと冷え込む中、最速155キロの速球を連発して7回11奪三振の力投を見せました。

 今や世界の舞台でも通用する投手に成長したかつての高校球児3人が、この球場のマウンドで躍動したことは永遠に語り継がれます。米大リーグ、ブルージェイズの菊池雄星投手にエンゼルスの大谷翔平選手。そして千葉ロッテの佐々木朗希投手です。

 菊池は花巻東高校3年の2009年春にセンバツ大会で準優勝投手になると、夏の岩手大会では最速150キロの速球を武器に、決勝戦で毎回の13奪三振の快投で甲子園出場を決めました。その3年後、2012年に全国の野球ファンの耳目を集めたのが同じく花巻東高校3年の大谷です。夏の岩手大会の準決勝一関学院戦で、アマチュア球界初となる160キロを叩き出しました。

 7年の時を経て、元号が平成から令和に変わった2019年に現われたのが大船渡高校3年の佐々木でした。4月に関西地区で行われたU18日本代表候補合宿の紅白戦で、アマチュア球界最速の163キロをマークし話題を独占。夏の岩手大会では決勝戦での登板はありませんでしたが、準決勝の一関工業戦で150キロ台後半の速球を武器に15三振を奪い完封勝利を挙げました。

 外野の天然芝は緑が鮮やかで、スタンドには昭和の匂いが残っていました。そんな球場の閉鎖を惜しむのは選手やファンだけではありません。「冬には球場に雪かき機が置かれていて、アナログ感もありました。全国でも少ないノスタルジックな球場だったので、寂しいし、もったいないですね」と語るのは日刊スポーツ記者の金子真仁さん(42)です。アマチュア野球担当として2019年には佐々木投手を追い続け、この球場に足繫く通いました。

 春先に163キロをマーク。一躍全国区となった「令和の怪物」の注目度が沸点に達したのは花巻東高校と戦った岩手大会決勝。「試合開始は13時でしたが、朝5時前に球場に着いたら30人ほどの観客が並んでいました。すごい盛り上がりでしたよ」とスマートフォンに残る写真を見ながら当時を述懐します。試合は前述のように佐々木が登板を回避したこともあり、大船渡高校は2対12と大差で敗戦。金子さんは同校の優勝も見据え、大船渡市内に宿を取っていましたが、帰り道で大渋滞に巻き込まれ「途中のコンビニエンスストアで原稿を打ちました」と苦笑いします。

 あの喧騒からまもなく4年。岩手県の三陸海岸にある県立高校の一投手だった球児は、この間に完全試合を成し遂げ、JAPANのユニフォームを身にまとい世界に「SASAKI」の名を轟かせました。金子さんは「高校時代から別ジャンルの人だと思っていました。当時の圧倒的な力からすれば、まだやれると思います」と、岩手県営野球場から羽ばたいた最後の大物投手に期待のエールを送ります。

 雪解けが進み、みちのくにもまもなく球春が到来。これからの球史は市内永井に完成した新球場(きたぎんボールパーク)に刻まれます。4月3日、盛岡市から桜開花の便りが届きました。役目を終えた野球場の周りにある桜も、球音が響かない中で静かに咲き始めました。

【NPB公式記録員 山本勉】

調査協力・金子真仁さん
吉田俊夫さん
岩手県営野球場
参考文献・岩手日報(2022年6月11日)