【コラム】球団ワースト記録の自身12連敗がついにストップ、「努力する才能」を持つ西武・隅田知一郎
長いトンネルを抜けることができた。西武・隅田知一郎は1年目の昨季、プロ初登板初先発のオリックス戦(ベルーナドーム)で強烈なインパクトを残した。開幕カード2試合目のマウンドに立つと、7回5奪三振、無失点。打たれたヒットはわずか1本とオリックス打線を寄せ付けず。二塁すら踏ませない圧巻の投球に、当時の辻󠄀発彦監督も「並の新人ではない」と脱帽。だが、幸先の良いスタートを切ったが、そこから勝利が遠ざかる。好投しても打線の援護が得られない不運も重なり、気が付けばパ・リーグ新人初の10連敗。1勝10敗でシーズンが終わった。
現状維持では浮上は望めないと、オフには大幅な投球フォーム変更にトライ。鴻江寿治トレーナーの自主トレに参加し、腕から始動するフォームにたどり着いた。「すごくしっくりきています。自分で自分が一番楽しみです」とキャンプから手応えを口にし、練習試合、オープン戦で好投。開幕先発ローテーション入りを勝ち取った。しかし、勝利をつかめない。開幕から2連敗。いずれも初回に失点するなど主導権を握ることができず、連敗は球団ワースト記録を更新する12まで伸びてしまった。
もう負けるわけにはいかない。4月19日のソフトバンク戦(ベルーナドーム)、今季3試合目の先発を果たしたが、再び初回にピンチを招いてしまう。二死から柳田悠岐に左前打、栗原陵矢に四球で一、二塁。だが、ここで開き直った。「今日はとにかく前回登板の反省をしっかり生かして、ゾーン内で勝負しようと思っていました」。牧原大成に対して初球のカーブは内角高めに外れたが、2球目はストレートをストライクゾーンに投げ込んだ。気持ちのこもった1球は高めへと吸い込まれたが、牧原大は球威に押されて二飛。ピンチを脱した隅田は毎回走者を背負うも6回1失点とソフトバンク打線を抑え込み、勝利を呼び込んだ。
「長らくお待たせしました。初勝利くらいうれしいです。ベンチが喜んでくれて実感が湧きました」と389日ぶりのプロ2勝目に笑顔を浮かべた隅田。さらに「昨年から我慢して使っていただいて、限りなく、誰も経験したことがないようないい経験ができていると思います。すごくいい糧になっています」とも語ったが、負の経験をマイナスにとらえない、前向きなメンタルが隅田を支えている。
プロ入り前のインタビューで「ここまで自分を支えてきたのは?」の問いに「“なにくそ”という負けず嫌いな性格ですね」と答えている。
「自然とそういう性格になったと思います。小学生のときから結構、足が速いほうだったんですけど、かけっこでも常に負けたくないと思っていましたから。プロでももちろんそうですよ。マウンドに上がったら絶対に負けたくないと思って投げています」
「努力する才能」も隅田の持ち味だ。悔いは残したくない。西日本工大時代も「あのとき頑張ればよかった」という後悔を抱かないためにも、100パーセントやり切って、その結果のドラフト1位を勝ち取った。プロ野球選手となっても同様だ。ユニフォームを脱ぐときに後ろ髪を引かれることがないように、一瞬もムダにすることなく野球と向き合っている。眼前の暗闇が晴れた隅田。背番号16の快進撃はここから始まる。
【文責:週刊ベースボール】