【記録員コラム】勝投手になったからセーブが記録されない!?
2023年のプロ野球公式戦が開幕し、1カ月が経つ頃です。今年はWBCにて日本の劇的な優勝に日本中が沸き上がり、各球場では声出し応援の解禁も相まってここ数年にはなかった熱気を感じます。心なしか、街の広場等でキャッチボールをする人の姿を多く見かけるようになったと思うのは気のせいでしょうか。
さて、今シーズンも私が気になったプレイやルールを公式記録員の視点から解説していきます。今回は勝投手とセーブ投手の関係についてです。
4月16日の二軍公式戦、読売ジャイアンツ対北海道日本ハムファイターズ2回戦(ジャイアンツ球場)は2-1で日本ハムが勝利しました。
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 計 | |
日本ハム | 0 | 1 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 2 |
読 売 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 |
日本ハム投手 投球回数
北山 3回
河野 1回
中山 1回
山本 1回
生田目 1回
柿木 2回
日本ハムは4回表に勝ち越してそのまま勝利しましたが、先発の北山亘基投手は投球回数が3回だった為、勝投手の条件を満たしませんでした。この場合、救援投手の中から勝利をもたらすのに最も効果的な投球を行なったと記録員が判断した投手に勝投手の記録を与えることになります。(下記コラムを参考)
その結果、この試合の勝投手は1点差の8回裏に登板し、投球回数2回で試合の最後まで投げ切った柿木蓮投手になりました。
ここで一つの疑問が浮かぶ方もいるのではないでしょうか。柿木投手は1点差の場面で登板し、試合の最後まで投げたのだから、セーブの記録が与えられるのではないか、という疑問です。
勝投手の記録が与えられるのに条件があるのと同じように、セーブの記録が与えられるのにも条件があります。3点差以内で1回を投げ切ったら、となんとなく認識している方も多いと思いますが、野球規則には意外と細かく定められています。
9.19 救援投手のセーブの決定(抜粋)
次の4項目のすべてを満たした投手には、セーブの記録を与える。
- (a)自チームが勝を得た試合の最後を投げ切った投手。
- (b)勝投手の記録を得なかった投手。
- (c)最低3分の1の投球回が記録された投手。
- (d)次の各項目のいずれかに該当する投手。
- (1)自チームが3点リードのときに出場して、しかも最低1イニングを投げた場合。
- (2)塁上に走者が残されているとき、その走者か、走者および相対する打者、または、走者と相対する打者およびその次打者が得点すれば、タイとなる状況のもとで出場してリードを守り切った場合。
塁上に走者が残されていないとき、相対する打者か、または、相対する打者およびその次打者が得点すれば、タイとなる状況のもとで出場してリードを守り切った場合。 - (3)最低3イニング投球した場合。
想像以上に細かいですよね。要約すると、3点差以内で1イニングを投げ切るか、1イニング未満でも走者なしであれば2点差以内、走者1人であれば3点差以内、走者2人であれば4点差以内、満塁であれば5点差以内の状況で登板しリードを守り切るか、あるいは点差に関係なく3イニング以上を投球すれば、セーブの記録が与えられます。
先述の試合に戻ります。柿木投手は1点リードの場面で登板し2イニングを投げ切っているので、セーブの条件を満たしています。
そうと思いきや、実は先ほどの野球規則9.19(a)~(d)4項目のうち、一つだけ満たしていません。
それは、(b)の「勝投手の記録を得なかった投手」という項目です。
詳しくは以前に「勝投手はだれ?」というコラムで解説していますが、救援投手の中から勝投手を決める際は、基本的に投球回数が他の投手より1回以上多い救援投手に勝投手の記録を与えます(野球規則細則Ⓐ16より)。
先ほどの試合では、先発の北山投手のあと、柿木投手が登板するまでに4人の投手が登板しましたが、いずれの投手も投球回数が1イニングでした。よって2イニングを投げて他の救援投手より投球回数が1回多かった柿木投手に勝投手の記録が与えられることになりました。その為、セーブの条件(b)の「勝投手の記録を得なかった投手」という条件を満たさなくなり、セーブの記録は与えられなかったということになります。
なお、一つの試合で1人の投手に勝とセーブの両方が記録されることがないのは上記の理由からです。
さらに仮の話になりますが、この試合における5人の救援投手のうち、柿木投手以外の誰かが1回1/3イニング以上を投げ、柿木投手との投球回数の差が1回未満になっていたとします。この場合は、セーブの条件を満たした投手にはセーブの記録を優先的に与えるので、1回1/3イニング以上を投げた投手が勝投手、柿木投手がセーブ投手となっていました。
いかがでしたでしょうか。何気ないことであっても、それを考えて追究する積み重ねが、野球規則理解を深めることにつながると考えています。
【NPB公式記録員 伊藤亮】