【コラム】首位攻防戦で鮮やかなサヨナラ打を放ち1位キープ、一番で打線をけん引するソフトバンク・中村晃
交流戦が終わり、リーグ戦が再開したペナントレース。2位・ソフトバンクは最初のカードでオリックスとの首位攻防戦を迎えていた。6月23日の初戦(PayPayドーム)、エース・山本由伸が目の前に立ちはだかったがタカ打線は鮮やかに攻略。2回までに4点を奪い試合を有利に進め、先発・有原航平も8回1失点と好投し、7対1で勝利を飾って首位を奪取した。翌日の第2戦(同)。しっかりと相手をたたいて首位を固めたい試合で輝いたのがベテランだった。
ソフトバンクは初回に幸先よく2点を先制。だが、その後はなかなか追加点が奪えず。6回に同点に追いつかれ、7、8回ともに三振ゲッツーと不穏な空気が漂う中、前のめりな姿勢が流れを変えた。9回、先頭の三森大貴が遊撃内野安打で出塁。甲斐拓也の犠打で二塁に進むと、続く中村晃の打席で3球目に果敢にスタート。ヘッドスライディングで三盗を決めると、球場のボルテージが急上昇。さらに、中村晃の胸の内には「絶対に決めてやる」という強い決意がわき上がった。
フルカウントからの8球目。集中力が最高潮に達していた中村晃は、ワゲスパックが投じた高めのストレートをとらえると打球はレフトへ。左中間を破るサヨナラ打は自身2020年以来の劇打。「何とか決着をつけたいと思っていました。三森が勇気ある盗塁をしてくれたので、僕も絶対打ってやろうと思っていました」。2位・オリックスとのゲーム差を1に広げる価値ある一打に、充実感を漂わせた。
開幕からコンスタントに安打を重ねていた中村晃。出塁率の高さを買われて5月中旬から一番に座っている。だが、以前から打順やポジションに強いこだわりはない。与えられた役割を黙々とこなすだけだ。
「一番だからという意識はあまりないですけど、打席の中で簡単にアウトにならないことだったり、絶対に塁に出てやるという意識はあります。まあ、一番に限った話ではないですけど、とはいえ、そういう意識を持っているということは、一番としての適性が少しあるのかなと思いますね。自分はチャンスを“つくっていく”タイプだと思っているので、タイプ的には一番打者が合っているというか、苦手意識はあまりないです。実は若いときも一番を打っていたんですけど、みんな知らないんじゃないですか(笑)」
今年でプロ16年目。キャリアを積み重ねてきたからこその強みもある。
「やってきたことは消えない。強みは経験しかないですね。あとは、グラウンドに立ってしまえば、1年目も、16年目も変わらないので。経験を生かした感覚というところは、強みじゃないかと思います」
昨年、ソフトバンクは76勝65敗2分。オリックスと同じ勝敗だったが、直接対決で10勝15敗と負け越していたために優勝を逃した。当然、悔しい思いは強く胸に刻まれている。
「シーズン序盤戦から、この試合を勝っておけば、あの試合を勝っておけば、というのを昨年、経験しているので。勝てる試合をしっかり勝つ。それを僕も含めてみんなが理解してやるというのが一番大事なのかなと思います」
V奪回に向けて、ベテランは静かに闘志を燃やしている。
【文責:週刊ベースボール】