【コラム】18年ぶり6度目のリーグ優勝を成し遂げた阪神、計り知れない四番・大山悠輔の献身性
歓喜の瞬間まで四番の役割を全うし続けた。阪神が優勝へのマジックを「1」として迎えた9月14日の巨人戦(甲子園)。6回一死一、三塁のチャンスで打席に入った大山悠輔は赤星優志の外角カットボールをきっちりセンターへ飛球を打ち上げる。三走・近本光司が生還し、0対0の均衡を破る犠飛で打線に勢いを与えた。続く五番・佐藤輝明がバックスクリーンへ20号2ラン。3対0と試合の主導権を握った阪神は巨人を振り切り、18年ぶり6度目のセ・リーグ頂点に輝いた。
「9月の本当に大事な月に、なかなかチームの力になることができていなかったので。今日はどんな形でも1点と考えていて犠牲フライで1点取れて、そのあとの(佐藤)輝明のホームランだったり、後ろのピッチャーが粘って投げてくれたりと、本当にチームに助けられているなと感じました」と周囲に感謝した大山。しかし、全試合で四番に座り続けた男の存在感がチームに栄光をもたらしたのは、まぎれもない事実だ。
7月25日、甲子園での巨人戦。1点を追う6回一死一塁で菅野智之の低めのフォークをすくい上げ、逆転2ランを左翼席へ運んだ。ダイヤモンドを周り終え、ベンチに戻ると夜空にヘルメットを掲げた。この日は7月18日に亡くなった元阪神外野手、横田慎太郎さんの追悼セレモニーが実施された一戦。大山は1学年下の後輩と合宿所「虎風荘」で語り合う仲だった。「あの試合はいつも以上に特別な試合だった」。負けられない試合でチームを勝利に導く一打。殊勲安打の数はチーム最多と勝負強さが際立った。
ただ、四番として特別なことは何もしていないという。
「『当たり前のことを当たり前にやること』が一番大事だと思って毎日プレーしていました。あとは『力まない』ことを心掛けていましたね。自分が決めてやろうと思い過ぎると、打席の中で変な力が入ってしまいます。そのために自分が思ったような野球ができないという経験をこれまで何度もしてきました。だからこそ『チャンスの場面で力を抜く』ということをテーマにしていました」
すべてにおいて、いかに自然体でプレーできるか。そのために、あらゆる面で「準備」を怠らなかった。
「配球の準備、体の準備、心の準備、すべての準備です。去年もいろいろとやっていましたが、それをより深く自分の中で考えることをやり、それがいい方向に行きました。自信というか、冷静になれると言ったほうがいいかもしれません。プレーの中では予想外のことがたくさんあるので、さまざまな準備をしていることで、何があっても慌てなくなる、ということがすごくあるんです。冷静さが保てるからリラックスできるのだと思います」
昨季124試合出場で59個だった四球は今季は9月18日現在、132試合出場でリーグトップの92個を数えている。出塁率のタイトルを争い、8犠飛もリーグ最多の数字だ。「自分は勝ちたいという思いが本当に強いので」。打率.287、15本塁打、69打点は四番として物足りない数字に映るかもしれないが、打撃主要3部門の成績だけでは計り知れない献身性は抜群だった。その重みはチームの誰もが知っている。
【文責:週刊ベースボール】