【コラム】セ・リーグ記録に並ぶ開幕から31試合連続無失点、巨人・マルティネスはピンチで“自分と会話”する守護神
この男がマウンドに上がるとファンは勝利を確信する。6月29日のDeNA戦(東京ドーム)、1対0と巨人がリードして迎えた9回表、場内にライデル・マルティネスの名前がアナウンスされた。マウンドで仁王立ちする背番号92は二死後、宮﨑敏郎に左前打を浴び、四番・牧秀悟と対峙。初球、155キロ直球で見逃しストライクを奪うも、代走の三森大貴に盗塁を決められ二死二塁となったが慌てない。一打同点のピンチに集中力を高めた。
「9回の1イニングを通してベストなパフォーマンスが出せるようにしていくことは当然だけど、得点圏にランナーがいるときといないときではアプローチが少し変わってくる。得点圏にランナーがいないときは、まずは“自分のボール”を投げることにフォーカスしていく。ただ、得点圏にランナーを背負ったときは“自分との会話”を始めるんだ。『ここはもっと集中するんだ』とか、『しっかりと低めに集めるんだ』とか、そういったことを自分自身に言い聞かせる。もちろん相手バッターの傾向にもよるけど、自分との会話を通して『こういうボールを投げよう』ということをはっきりさせながら、さらに集中力を高めて、最大限のパフォーマンスを出すようにしているんだ」
この場面で選択したのは「自分の一番の武器で勝負する」ことだった。2球目は内角高めのボールゾーンに直球を投げ込み、牧をのけぞらせる。3球目は真ん中高め直球で空振り。カウント1-2と追い込むと、4球目は渾身の155キロ直球を外角高めに投じ、力のない二飛に仕留めて逃げ切った。マルティネスは今季26セーブ目。防御率は驚異の0.00で開幕から31試合連続無失点をマークし、2016年に田島慎二(中日)が樹立したセ・リーグ記録に並んだ。
「記録については考えず、チームの勝利に貢献することだけを考えているよ。まずはチームがたくさんチャンスをくれていることに感謝したい。開幕当初は調子が今ひとつだった部分はあったけど、これまでのところは自分が自分に期待していたような結果を出すことができていると思う。それはやっぱり、春季キャンプから始まって、シーズンが開幕してからもしっかり練習を重ねることができていることが成果につながっている」
中日で育成選手からはい上がり、20年途中にクローザーを任されると、22年からの3年間は39セーブ、32セーブ、43セーブを挙げて2度の最多セーブに輝いた。球界最強のクローザーへと成長した右腕は昨オフに4年総額50億円以上という歴史的な大型契約で巨人へ移籍。新天地でも存在感を十分に発揮している。
「移籍して新しい環境になったと言っても、日本で長い時間を過ごしてきたからね。むしろ、これまでと何も変えずに、しっかりと自分のやり方を実行できていることがひとつあると思う。もうひとつは違うチームでもあったけど、今一緒にプレーしているチームメートは同じセ・リーグで昔から見ていたり、知っていたりする選手が多かったから。そのことがチームに順応する助けになったし、早く環境に慣れることができた。その意味では同じリーグでの移籍は良かったと思う」
クローザーのやりがいは「一番難しい最後のアウトを自分の力で取ること」だというマルティネス。チームが連覇を果たすために、これからも勝ちゲームの最後を締める役割を確実に果たす。
【文責:週刊ベースボール】