【球跡巡り・第99回】京都ロビンスが進出を目論んだ 舞鶴中(なか)グラウンド
京都府北部に位置する舞鶴市はかつて旧日本軍の軍港として栄え、鎮守府の所在地でした。現在は海上自衛隊の基地港として総監部(舞鶴地方隊)が置かれ、秋田県から島根県に至る日本海側一帯の警備を担っています。
この街をプロ野球が初めて訪れたのは1948年夏でした。プロ野球と言っても一軍戦ではなく、この年に結成された金星と阪急の二軍メンバーによる試合でした。ただし残された記録は、舞鶴市体育協会が1996年に発行した「設立50周年記念 体育協会史」の年表にたった一行「プロ野球二軍戦(金星対阪急)(夏)」とあるだけです。
スコアはもちろん、開催日、球場、メンバー等の詳細も不明です。二軍の球史に詳しく『二軍史』の著書もある松井正さんは「この年から二軍が編成され、阪急は大陽と合同でチームを作り7月30日の千葉県銚子市を皮切りに金星と地方を転戦しています。8月1日は新潟県長岡市、14、15日には石川県金沢市でゲームをやっています。金沢から京都方面へ移動して試合をした可能性がありますね」と推測。後日、国会図書館でローカル新聞をくまなくめくりましたが、足跡はたどれなかったそうです。
初の一軍戦は1949年5月25日に行われた大陽対大阪タイガース(阪神)でした。スコアカードの球場名は「舞鶴中」と記され、「中」には“ナカ”のルビが振られています。会場は舞鶴中学校の校庭ではなく、舞鶴中(なか)グラウンドでした。かつて敷地には1925年開設の海軍兵学校舞鶴分校があり、終戦後に廃校されると復員兵受け入れの拠点として使われていました。その一角を整地し、この日が新装グラウンドのこけら落としでした。
会場は専用野球場ではなく、グラウンドの中央に400メートルトラックもあり、ソフトボールなら4面は取れる広さがありました。当時の航空写真では常設のフェンスが確認できませんから、当日は仮設フェンスを張り巡らせて興行したと思われます。主催の京都新聞は「早朝からファンが詰めかけ、正午に選手入場。ブラスバンドの演奏、振り袖姿の女性による花束贈呈、柳田市長の始球式で試合が始まった」と伝えています。観衆は12000人。両丹地方初のプロ野球は大盛況でした。
公式戦開催は1年のみで、全て大陽球団が絡んで4試合を行いました。大陽はその前年、1948年まで自前の球場を持たず関西を中心に戦っていました。同年12月の代表者会議で、暫定的ながら49年から京都をフランチャイズとすることが決定。『京都新聞百年史』によると、2月20日に京都新聞社と大陽球団が正式契約を交わし“京都ロビンス”が誕生しました。
チームは立命館大学所有の衣笠球場を専用球場として活動を開始。と同時に新聞販売の拡張狙う京都新聞の意向もあり、京都府北部への進出に積極的でした。試合直近の紙面には大きな活字で「京都ロビンス来る!」と開催を告知。ここ舞鶴中グラウンドで4試合のほか、福知山市民球場でも2試合を興行しました。
ところで、新聞上の球団名の表記は当初「京都ロビンス」や「京都大陽ロビンス」とありますが、最終的には「大陽」で統一されています。日本野球機構編集のオフィシャルベースボールガイドの巻末にある球団変遷図でも「大陽ロビンス」とされていて、京都の文字はありません。球団と新聞社が何らかの契約を締結したのは事実ですが、球団名の変更に触れていたかは疑問が残るところです。
プロ野球は1950年から二リーグ制に移行。大陽は松竹の資本参加で「松竹ロビンス」と球団名を変え、セ・リーグに参戦します。すると京都での試合自体が4試合と激減し、両丹地方への足も遠のきました。舞鶴市での一軍公式戦が1949年の4試合にとどまったのは、球界再編の影響もあったのでしょう。
舞鶴市における本格的な野球場の建設は1976年と遅かったこともあり、中グラウンドは高校野球の試合でも使用されました。27歳から50年間軟式野球の審判を務め、このグラウンドにも立った東功(あずま いさお)さん(84)は「小学生の時に、高校球児だった従兄の試合をここで見ました。外周は柵の代わりに木で囲まれていて、4段ほどですが一塁側には木製スタンドもありました」と当時の様子を記憶にとどめています。
その舞鶴中グラウンドは海上自衛隊の管理の下、プロ野球開催当時と比較すると半分ほどの広さになって現存。自衛隊員の訓練場として使用されるほか、市民の野球大会などに貸し出しされています。
【NPB公式記録員 山本勉】
| 調査協力・ | 東功さん 松井正さん 舞鶴市立東図書館 舞鶴市 中公民館 舞鶴市役所 |
|---|---|
| 参考文献・ | 「設立50周年記念 体育協会史」舞鶴市体育協会 京都新聞(1949年5月26日) 「地方紙と業界紙から探る戦後京都のプロ野球興行」京都府立総合資料館紀要 第44号抜粋 |
| 写真提供・ | 舞鶴市役所 |
