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【コラム】「技術はメンタルを凌駕する」阪神・藤浪晋太郎が692日ぶりの勝利

 ようやくトンネルを抜けだした。ベンチで勝利の瞬間を見届けた背番号19はそっと右拳を握った。2018年9月29日中日戦(ナゴヤドーム)以来、692日ぶりとなる白星。阪神・藤浪晋太郎は「苦しいことばかりで、つらいことが多かった。でも、コツコツやるしかないと思って、毎日毎日、練習してきました」とヒーローインタビューで胸中を吐露した。今季一軍初先発の7月23日広島戦(甲子園)から4戦4敗と苦しんだ。ただ、4敗のうち3敗は打線の援護に恵まれず、守備陣のミスも絡んで負けていた。8月14日の広島戦は6回6失点と打ち込まれたが、もともと苦手にしていた京セラドームが舞台だった。

 迎えた5戦目は8月21日のヤクルト戦(神宮)。藤浪対策として左打者6人を並べた燕打線に対して堂々と立ち向かった。勝利への執念はまずバットで発揮した。2回表、一死満塁で打席に入ると外角カットボールに食らいついた。三塁へのボテボテの当たりとなったが適時内野安打となり、チームに38イニングぶりの得点をもたらした。この回、さらに3点を追加。4対0としたその裏、失策、三振捕逸、犠打野選で2点を失ったが、最速155キロの直球を軸に攻める投球は貫いた。5回に村上宗隆、7回には坂口智隆にソロ本塁打を浴び、6回1/3、4失点で降板したが、チームは一丸となって藤浪に勝利をプレゼントした。

 フォームを崩して制球が制御不能になった日々。何度となく「イップス」をささやかれた。スポーツ選手が突然イメージどおりに動けなくなる精神的な症状。気にならなかったと言えばウソになる。「ちょっとでもボールがそれたら『あ~』とため息をつかれて……。キャッチボールさえ憂鬱な時期も正直、ありました」。それでも「技術はメンタルを凌駕する」と信念を貫き続け、愚直に技術向上に努めてきた。

 未勝利に終わった2019年。秋季キャンプから中日で200勝を挙げたレジェンド左腕、山本昌臨時コーチからアドバイスを送られた。それが「手首を立てて投げよう」。ボールを縦に切るイメージが左右のブレを小さくする。指先でボールをかむ感覚を染みこませると、すっぽ抜けたり、引っかけたりするボールは目立たなくなった。さらに「バレーボールでアタックを打つように投げること」を心掛けるように言われてブルペンで取り組んだ。12月には沖縄・北谷で最新機器による動作解析を行う米シアトルのトレーニング施設「ドライブライン・ベースボール」の講習にも参加、復活のきっかけを模索し続けた。

 今春キャンプでも自らの投球を再構築するために練習に励んだが、開幕先発ローテーション入りを争っていた3月下旬には新型コロナウイルスに感染。5月下旬に練習での遅刻が原因で二軍降格すると、今度は右胸を負傷した。グラウンド外のつまずきも影響して大きく出遅れたが、積み重ねてきた努力の結晶が簡単に崩れることはなかった。

 二軍でも誰よりもブルペンに入り、ピッチングを磨いた。ウエスタン・リーグでは3試合に投げ、2勝0敗、防御率0.00。周囲を認めさせる結果を残して一軍へ昇格し、復活劇を成し遂げた。「つらいことのほうが多かったので、人の痛みが分かるようになりました。人間として一つ成長でき、大きくなれたのかなと思います」。22日には先発翌日としては異例のブルペン入り。「1つ勝っただけで喜んでもらっているようではダメですから」。地獄からはい上がった男は力強く前だけを見据えている。

【文責:週刊ベースボール】