• セントラル・リーグ
  • 阪神タイガース
  • 広島東洋カープ
  • 横浜DeNAベイスターズ
  • 読売ジャイアンツ
  • 東京ヤクルトスワローズ
  • 中日ドラゴンズ
  • パシフィック・リーグ
  • オリックス・バファローズ
  • 千葉ロッテマリーンズ
  • 福岡ソフトバンクホークス
  • 東北楽天ゴールデンイーグルス
  • 埼玉西武ライオンズ
  • 北海道日本ハムファイターズ
  • 侍ジャパン

日本野球機構オフィシャルサイト

ニュース

NPBニュース

【コラム】稲葉篤紀監督の理想とした形を体現、チームが「結束」して見事につかんだ金メダル

 悲願を達成し、日本代表の稲葉篤紀監督は5度、選手の手で宙を舞った。8月7日、横浜スタジアムで行われた東京五輪の決勝でアメリカを2対0で下し、公開競技だった1984年ロサンゼルス大会以来、正式競技となってからは初の金メダルを獲得。「最高です。選手が本当に一生懸命にやってくれて、そういう思いが最後にグッときた」とこぼれ落ちる涙をぬぐった。

 菅野智之(巨人)ら辞退者が続いて代表選考から難航したが、稲葉監督の24選手への信頼は厚い。泰然と構え、7月19日の合宿初日のミーティングでは「みんなでチームを作るんだ、という意識でやってもらいたい」と訴えた。監督が4年前の就任当初から中心視し、思いを共有してきた坂本勇人(巨人)、菊池涼介(広島)らが積極的に周囲に声を掛け、一体感を高めた。

 7月28日、福島でドミニカ共和国との初戦を迎えた。球界のエースに成長した山本由伸(オリックス)が酷暑のデーゲームで6回2安打無失点と強力打線を抑えたが、2番手の青柳晃洋(阪神)が2失点するなど1対3で9回に。窮地で打線が目覚める。一死からの3連打で1点を返し、甲斐拓也(ソフトバンク)のスクイズで同点。最後は一死満塁から坂本が中堅手の頭上を越えるサヨナラ打を放ち、興奮の雄たけびを挙げた。「みんなでもぎ取った勝利」と笑顔があふれた。

 劇的な白星で勢いをつかんだ日本。2戦目のメキシコ戦は山田哲人(ヤクルト)の3ラン、坂本のソロ本塁打などで得点を重ね、7対4で逆転勝ち。2連勝でオープニングラウンドA組の1位通過を決めた。8月2日の準々決勝、アメリカ戦も再び熱戦。3対6の5回に四番・鈴木誠也(広島)の今大会初安打となるソロ本塁打などで2点を返し、9回一死一、三塁から内野ゴロの間に同点。延長10回は無死一、二塁から始まるタイブレークに入り、まずは栗林良吏(広島)が新人らしからぬ堂々とした投げっぷりで得点を許さない。その裏、一死二、三塁から甲斐が「打っていいですか?」と監督に直訴し、初球をとらえて右越えにサヨナラ打を運んだ。「本当に最後まであきらめないで戦った結果」とヒーローは誇らしげに胸を張った。

 準決勝は韓国戦。稲葉監督が現役時代に出場した前回2008年の北京大会の準決勝で敗れ、金メダルへの道が閉ざされた宿敵と対した。2対0の6回に追い付かれ、この一戦も終盤まで試合がもつれる。決着をつけたのは、今大会、世界野球ソフトボール連盟(WBSC)から最優秀選手に選ばれた山田だった。2対2の8回二死満塁から低めの速球を強振し、左翼フェンス直撃の走者一掃の勝ち越し二塁打。「すごく緊張したけど、気持ちで決めた」と山田は充実感いっぱいに振り返った。

 決勝は今後の球界を支える若手が躍動した。先発のプロ2年目・森下暢仁(広島)が5回無失点の好投でチームに流れを呼び込めば、21歳の村上宗隆(ヤクルト)が3回に逆方向の左中間席に先制のソロ本塁打をたたき込んだ。立ち上がりから飛ばした森下は「自分の持っている力をすべて出そうとマウンドに上がった。1点を何とか守ろうと必死に投げた」と安堵し、村上は「たくさんの一流の先輩方と野球をして、すごく誇りに思います」と高揚感を口にした。

 稲葉監督は就任から一貫して「五輪で金」と言い続けてきた。試合後のセレモニーが終わると、菊池涼から金メダルを首から掛けられ「非常に素晴らしい色をしていた。重量感があった」。4年間、選手との対話を最も大切にし、心をつなぎ合わせてきた。今大会は「バントしていいですか」など、選手が自主的に動き、まさに以心伝心の戦いぶりだった。ずっと追い求め、理想とした形を体現し、稲葉監督は「素晴らしい選手と野球がやれて本当に幸せ。最高のチームだった」と充実感にあふれる表情を見せた。

【文責:週刊ベースボール】