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【記録員コラム】サヨナラの向こう側

 4月20日西武対ロッテ5回戦(ベルーナドーム)の4回表二死一、二塁。
ロッテの打者・福田光輝選手が打った三塁側へのファウルフライ。三塁手の西武・山野辺翔選手がラバーフェンスに足をかけながら防球ネットすれすれでキャッチ。めったに見られないファインプレーだったが判定はファウル。西武・辻発彦監督がリクエストするも判定は変わらず。

 このプレーに対し一部のメディアから「山野辺選手が防球ネットをつかみながらキャッチしたのでアウトと認められなかった」という内容の記事が発信されました。そのようなグラウンドルールがあるわけでもなく、どういう経緯で記事になったのかは不明です。実際は山野辺選手がキャッチした付近ではなくて、防球ネットの最上部の方で飛球が当たったという判定でファウルになりました。リクエストもその判定に対してされたものだったのですが、その後の報道が無かったことでSNS等では「ネットをつかみながら…」が事実となって書かれているように見受けられます。

ルール上は、防球ネットをつかんだ状態でキャッチすること自体でファウル(ノーキャッチ)にはなりません

 関係者はもちろん、ファンのみなさまが誤った認識を持ったままになっているのは見過ごせないので、記録員コラムではありますがあえて記しておきます。

 そして上記の事で筆者がひとつ思い出したことがあったので、今回はそれをご紹介したいと思います。

 2014年5月6日ソフトバンク対日本ハム7回戦(ヤフオクドーム)1-1の9回裏一死二、三塁。
1ボール2ストライクから日本ハム・増井浩俊投手が投じた4球目をソフトバンク・松田宣浩選手が空振りするも、ワンバウンドとなった投球を捕手が後ろに逸らし三塁走者が得点してサヨナラで試合終了。この時、いわゆる振り逃げの状態だったが松田選手はその場で三塁走者のホームインを見届け一塁には走らないままだった。

 記録はどうなるかと質問に来た記者には「記録は松田の三振(振り逃げ)と増井の暴投だが、二死ではないので松田の振り逃げに関係なく三塁走者が得点したことで試合終了なので『サヨナラ暴投』の扱いになる」と説明したのですが、翌日のスポーツ新聞各紙の見出しは「サヨナラ振り逃げ」となっていました。

 新聞がセンセーショナルな見出しを付けることで注目を集めようとすることはよくある事です。その意味で見出しをサヨナラ振り逃げとすることは理解できます。しかしある記事が「メディア配布の公式記録スコアが松田は三振で残塁になっているので、(公式記録として)これはプロ野球史上2度目のサヨナラ振り逃げである」との内容で書かれていました。

 記録上はサヨナラの得点後の無意味なプレーは無視するので、このケースで言えば仮に三塁走者が得点後に守備側が打者をアウトにするプレーをしてもアウトとは扱いません。したがって振り逃げの状態になったがその場に留まっていた打者についてはアウトにはせず(三振で)残塁を記録することになります(以前【記録員コラム】三振=アウトではない!?で、“見逃し(ストライク)でも「振り逃げ」は成立する”という話が書かれましたが、これは“逃げなくても「振り逃げ」は成立する”ということになりますね)。

 では、打者の記録が振り逃げになるのなら、その時に得点しているのだから「サヨナラ振り逃げ」でいいのでは?と思われるかもしれません。しかしその理屈で言うと、無死または一死で走者が一塁にいる場合はスリーストライク目を捕手が確保出来なくても打者は自動的にアウトですが、この時にサヨナラとなった場合「サヨナラ三振」と表現することになります。

 もうひとつ言えば、これが四球だったらどうでしょうか。走者二、三塁でフォアボール目の投球を捕手が逸らして走者ホームインでサヨナラのケース。サヨナラ四球と言えば満塁からの押し出しを指すので、このサヨナラは「サヨナラ四球」ではなく「サヨナラ暴投(捕逸)」と扱うことになるのはお分かりになるでしょうか。

 このように考えれば、打者が一塁に出塁しなければ成立しない二死の「サヨナラ振り逃げ」と、無死もしくは一死でのサヨナラ暴投(捕逸)の違いも理解していただけると思います。

 現在はSNSなどで昔とは比べものにならないぐらいのスピードで情報が広まります。そして誰でも情報発信が出来ることもあり、事実とは異なった内容の話になって広まってしまう可能性もあります。そうした事をなるべく無くすためにも、ファンの方々への正確な情報発信を心がけていかなければと考えています。先日の山野辺選手のプレーに関わる一件で、あらためてそのような事を思いました。ここでご紹介したような記録上の難解な話など、気が付いたことはできる限り当コラムで取り上げていければと思います。

 今回は公式HPらしからぬ主観も入ったコラムになってしまったかもしれませんが、お読みになったみなさまはどうお感じになられたでしょうか?

【NPB公式記録員 藤原宏之】

※サヨナラ振り逃げ(過去プロ野球1度)
1994.6.12 オリックス対ロッテ12回戦(グリーンスタジアム神戸)
3-3の延長10回裏二死満塁、1ボール2ストライクから成本年秀投手が投じた4球目をイチロー選手が空振りも定詰雅彦捕手が後逸(記録・三振と捕逸)。