【コラム】プロ野球史上初の新人優勝決定サヨナラ打、ヤクルト・丸山和郁の夢は「首位打者」
プロ野球で誰も経験したことのない一打を放った。9月25日、マジック2の首位・ヤクルトが2位・DeNAを下せば優勝が決まる一戦(神宮)。試合は0対0のまま9回裏に突入した。この回からDeNAのマウンドに上がったエスコバーからヤクルト打線は先頭のオスナが遊撃内野安打で出塁すると、続く中村悠平が犠打を決め一死二塁。サヨナラのチャンスに打席に入ったのはドラフト2位ルーキーの丸山和郁だった。8回二死から右股関節付近に痛みを訴えた右翼のサンタナに代わって途中出場。大一番で突如グラウンドに立ったが、打席前には大松尚逸打撃コーチから「腹をくくってしっかり“男”になってこい」と言葉を掛けられて覚悟が決まった。
真っすぐ一本に絞ると、カウント1-0からの2球目だった。外角低めの剛速球にバットをうまく合わせると、低い弾道の打球が左中間を破る。「感触は良かったですけど、打球がどこに飛んだか分からなかった。ベースを回って見たら、外野の間を抜けてくれたので……」。劇的打を確信するとヘルメットを空高く投げ飛ばして、歓喜の表情。新人が優勝を決めるサヨナラ打をたたき出したのは史上初めてのことだった。
「最後の最後でこうやって優勝に貢献できたのは、心の底からうれしく思います」
即戦力の期待を受けた1年目。開幕戦でプロ初出場を果たしたが、打撃で結果を残せず4月4日に登録抹消。二軍では打撃を徹底的に見つめ直した。
「ファームにいるときにバットをたくさん振り込みましたし、先輩方にバッティングについて聞いてみたりもしました。打ちにいくときに体が早く開いてしまうという課題があって。また、開くのが早いのですが、打つポイントは差し込まれる感覚でした。そういった点を直したくて、練習をしてきました」
6月2日に一軍再昇格。まずは持ち味の俊足、強肩を生かして代走、守備固めで存在感を発揮。特に50メートル5秒8を誇るチームトップクラスの俊足を生かした走塁は接戦で光ったが、最後の最後に打撃で真価を発揮した。
三冠王を視界にとらえる“最強打者”村上宗隆と同学年の「村上世代」でもある。
「本当に同じ年なのだろうかと思います。そう思うほどの活躍をしていますし。おそらく年齢をごまかしていますよね(笑)。選手としてのタイプが異なりますから、追いつけ追い越せというよりは、いつかは同い年でチームを引っ張りたいなと思います。投手では金久保(優斗)と山下(輝)も同級生なので。みんなでチームを引っ張っていけるようになりたいです」
将来の夢は首位打者だという。
「そのためにも、細かな部分をもっと突き詰めていかなければいけません。まずは三振を減らすこと。バットに当てて事が起これば、ヒットになる可能性が出てきます。そして、ボール球を見極めること。四球を選ぶことができれば打率も落ちません。バントも同じで、成功すれば打数には加算されない。ヒットを積み重ねて打率を上げるだけでなく、すべての面で精度を上げたいです」
一歩ずつ足元を固めながら、理想の選手になっていく。
【文責:週刊ベースボール】