【コラム】史上5度目の「ノーヒットワンラン」を達成、ファンにとっての希望であり続ける西武・今井達也
7回表、一死三塁。スコアは1対0だった。ソフトバンクの四番・山川穂高に対してフルカウントとした西武の今井達也は「スライダーで四球になるか、三振になるか。とにかく一発が出て逆転にならないこと。それ以外はしようがないと割り切っていました」。7球目、外角へ切れ込むスライダーに山川のバットが届き、大きくはずんだ打球。三塁手・外崎修汰がつかんだが本塁には間に合わず。スコアボードに「1」が刻まれた。
4月18日、ベルーナドームでの一戦。先発の今井は快投を続けていた。初回、先頭の川瀬晃に四球を与えたがその後は相手に隙を与えず、18人連続で打ち取った。6回までノーヒット。7回、先頭の佐藤直樹に四球で出塁を許し、一死三塁とされ山川の三ゴロで1点を失ったが依然ノーヒットだ。8回も三者凡退で仕留め、9回は平良海馬にマウンドを譲ったが、守護神も安打を打たれず3人斬り。1964年5月13日南海戦で近鉄の牧野伸、山本重政が達成して以来61年ぶり、プロ野球史上5度目の「ノーヒットワンラン」となった。
「真っすぐでも、変化球でも空振りが取れていたし、ボールの高さも良かった。5回が終わった時点で今日は(ノーヒットノーランを)やるのではないかと思った」と西口文也監督が絶賛するピッチング。平均球速が155キロに迫るストレートにスライダーのキレ味も素晴らしく「本当に100点に近いピッチングができたと思います」と本人も満足げな表情を浮かべた。
4月21日現在、リーグ2位の防御率0.84と抜群の安定感を誇る。相手を圧倒するピッチングができるのは思考能力の高さもあるからだ。
「スピードだけではバッターから空振りを奪うのはなかなか難しい。フォームの中で変化球を投げると思わせてストレートを投げたり、ストレートを投げると思わせて変化球を投げたり、データに表れない部分も大事になります。配球だけでは限界を感じている部分もあります。どのようにバッターをだましていくかということも必要なことです。自分は力を入れているけれど、第三者から見て力が入っていないように見えるのが理想。155キロに見える150キロをずっと投げていれば、抑える確率が上がるのではないかということも考えますね」
昨年、初めて奪三振王のタイトルを獲得。三振を奪うことにこだわりを持つ。
「知り合いと食事をしていたときに、その中にたまたまお子さんが野球をやっているという方がいて。そのお子さんが初めてピッチャーをやって、三振を2、3個取ったらしいんです。家に帰ってきてからもずっと『今日僕、三振3個取ったんだよ!』と言い続けていたという話をなさっていて。それを聞いて、『小学生でも、ピッチャーにとって三振を取れることの喜びを感じているんだな』と、僕もなんかうれしかったんですよね」
ファンの方にとっての「希望」、対戦相手にとっては「絶望」を抱かせる存在でありたいと語る今井。自らの理想像をしっかりと体現しているのは誰もが認めるだろう。獅子の背番号48のピッチングから目が離せない。
【文責:週刊ベースボール】