【記録員コラム】有失点?有得点?
先日、4月18日の西武-ソフトバンク4回戦(ベルーナドーム)で1964年以来61年ぶりの記録が誕生しました。
試合は西武・今井達也投手が8イニングを無安打、9回は平良海馬投手がわずか7球で3者を片付けてソフトバンクをノーヒットに抑えて勝利。ただ無安打に抑えながら7回表に四球で出塁させた走者が盗塁と内野ゴロ2つで得点して1点を取られたことで、過去107度(継投含む)あるノーヒットノーランよりも“激レアアイテム”となるプロ野球5度目、パ・リーグ2度目の無安打有失点試合という珍記録になりました。
そこで今回は過去4度(一リーグ2度、セ・パ各1度)あった無安打有失点試合についてご紹介します。
無安打無得点試合 (ノーヒットノーラン)
【参考】無安打無得点試合を逃した記録
1939年5月6日 南海-阪急3回戦(甲子園)
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 計 | |
阪急 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 1 | 0 | 0 | 2 |
南海 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 |
試合経過
4回裏、三ゴロ失策で出塁した鶴岡一人が二塁盗塁、二死二塁から国久松一の右翼線三塁打で先制。
6回表、四死球と犠打失策での一死満塁から黒田健吾の左犠飛で同点。
7回表、先頭の岸本正治に四球を与えたところで投手・宮口から平野に交代。次打者・田中幸男の送りバントを三塁手・鶴岡が一塁悪送球で岸本が一挙ホームインして勝ち越し。
先発・重松を7回途中からリリーフした浅野が守り切り勝利。
備考
- 無安打有失点は敗れた南海で、阪急は日本プロ野球唯一の「チーム無安打で勝利」。
- 現在なら勝利投手は重松だが、当時の記録員は1点差の二死二塁を抑えて投げ切った浅野を勝利投手としている。
1939年8月3日 イーグルス-金鯱 7回戦(西宮)
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 計 | |
金鯱 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 |
イーグルス | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 1X | 2 |
試合経過
1回表、四球2つと犠打失策から二死満塁となり、投手・古谷が四球を選んで押し出しで先制。
6回裏、一死から太田健一、寺内一隆の連続二塁打で同点。
9回裏、二死一、二塁で木下政文の一ゴロを一塁手・小林利蔵が失策してサヨナラ。
備考
- 亀田は無安打に抑えるが初回の押し出しを含めゲーム10与四球。翌年の1940年と41年で2年連続ノーヒットノーランを達成したが、その時も1940年9個、41年は6個の四球を与えている。
1959年5月21日 阪神-巨人 8回戦(甲子園)
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 計 | |
巨人 | 0 | 0 | 0 | 0 | 2 | 0 | 0 | 0 | 0 | 2 |
阪神 | 0 | 0 | 0 | 2 | 0 | 1 | 0 | 0 | X | 3 |
試合経過
4回裏、一死一、三塁から横山光次のスクイズ(犠打野選)と西山和良の左前安打で2点。
5回表、一死二塁から広岡達朗の三ゴロを三宅秀史が一塁悪送球で二塁から長嶋茂雄が得点して1点。
さらに次打者・宮本敏雄の投ゴロを村山が一塁悪送球で二塁から広岡が得点して同点。
6回裏、同点のきっかけとなるタイムリーエラーをした三宅が藤田から左翼へソロ本塁打で勝ち越し。
備考
- 村山は14奪三振で完投勝利。この約1カ月後には、長嶋にレフトポール際のサヨナラホームランを打たれ「あれは絶対ファウル」と言ったとされる有名な天覧試合(1959年6月25日 対巨人11回戦(後楽園))。
1964年5月13日 南海-近鉄 7回戦(大阪)
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 計 | |
近鉄 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 2 | 0 | 3 |
南海 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 1 |
試合経過
1回表、二死一、三塁から山本八郎の右安打で1点。
6回裏、一死一、三塁で投手・牧野から山本に交代。直後の杉山光平の二ゴロ(失策)の間に広瀬叔功が得点。
8回表、一死二塁から代打・矢ノ浦国満の右中間三塁打と吉沢岳男の左安打で2点。
備考
- 無安打有失点はほぼ失策が絡むので自責点にならないことが多いが、この試合の6回裏の得点は失策が一塁走者の二塁進塁に対して記録されて、得点は杉山の打点になっているので牧野の失点は自責点。無安打有失点が自責点になっているのは失策なしで得点された今回の今井とこの牧野だけで、あとの3試合はすべて非自責点。
- 高卒新人ながら1956年東映で開幕投手になった牧野は、現役引退後の1969年からパ・リーグ審判員へ転身。1994年までの26年間で通算1969試合出場、日本シリーズ2回、オールスターゲーム4回出場。
以上、過去4試合の“激レアアイテム”無安打有失点試合をご紹介しました。
一般にノーヒットノーランは日本語としては直訳で無安打無得点試合と言っているから、これは「無安打有得点試合」ではないかと思われる方もいると思いますが、「無安打に抑えたのに点を取られた(失点した)」という投手目線でこのコラムでは無安打有失点としています。
それと余談ですが、今回のベルーナドームの公式記録員は私でした。個人的には無安打無得点試合は過去に一軍とファームで各2度あるのですが、今回の今井投手のピッチングはその4度の投手と遜色なく素晴らしかったと思います。特に8回の気迫あふれる投球はライオンズファンにはしびれるものだっただろうと試合後に感じました。
今後もいろいろな好記録・珍記録が達成されることをファンのみなさまも期待されていると思いますので、その際にはまたこのコラムで記録の裏付けから取り上げていければと思います。
【NPB公式記録員 藤原宏之】