【コラム】ビッグアーチ量産で球界のスターへ、強打でチームを優勝に導いた阪神の四番・佐藤輝明
驚愕の弾道を描いた一発だった。9月4日の中日戦(バンテリンドーム)、初回二死一塁の場面で打席に立った阪神の四番・佐藤輝明。カウント2-2と追い込まれながら涌井秀章の内角低めのカットボールにうまく反応した。体勢を崩されながら片手1本で拾い上げるようにスイング。打球は低い弾道ながらグングン伸びて右翼席へ突き刺さった。リーグトップを快走する36号2ラン。本塁打が出にくいバンテリンドームでは今季7本目となり、2005年に金本知憲が記録した6本塁打を超え、球団新記録となった。
「ネルソンが先発というところで、初回から先制できたのはよかったです」
7対5で勝利したチームは3位以内が確定し、クライマックスシリーズ進出が決定。さらに優勝マジックを「4」にすると、5日からの広島3連戦(甲子園)で3連勝。2年ぶり7度目のリーグ優勝を果たした。
「前回(の優勝)は18年ぶりの重みがありました。今年は去年の悔しさを持って勝てたので、そういう意味でうれしい。(今季の活躍は)今までの積み重ねが生きて、ここまで来られたのかなと感じています」
9月7日時点で本塁打、打点の2冠王。誰もが今年のMVP候補1番手であることを認める成績を残している。プロ1年目から3年連続20本塁打超え。しかし、昨年は16本塁打に終わった。三振が多く、好不調の波が激しい打撃が課題だった。殻を破るために昨オフに考え方を変えた。それまでは課題をつぶすために技術を上積みすることに力を入れてきたが、無駄を省くことにシフトチェンジ。例えばフラットに構えた両肩のラインからスイング時に左肩が出ないことを徹底。左肩が出ればバットが遠回りしてしまう。それを防ぐためだ。
「上積みで崩すことがありました。今年は、より洗練されたものになっているのではないかと思います」
今年は打席でどっしりと構えながら、どこか力が抜けている印象もある。昨年までは構えた時点で力感が目立ち、力いっぱいバットを振るスタイルだった。しかし、佐藤輝のパワーなら強振しなくてもしっかりコンタクトできれば打球は飛んでいく。146三振はリーグワーストだが、そこは本塁打と表裏一体。無駄を省いてシンプルな打撃にしたことで、チャンスの場面でも余計な力が抜け、重要な場面で勝負強さを発揮することが増えた。
四番に関しても「特に意識はないです。四番だからこうしなくちゃいけないというのは、僕の中ではないです」という。無欲で突き進む5年目のシーズン。阪神では1986年のランディ・バース以来、本塁打王が生まれていないが佐藤輝がホームランキングに輝いて新たな歴史を築くのは確実だ。
「どんな試合展開でも、その選手が見たくなる。そう思ってもらえる選手がスターだと思います」
球界のスターへ――。野球ファンが見惚れるビッグアーチを量産していく。
【文責:週刊ベースボール】