【コラム】タイトルの意識はなく無欲でバットを振る、セ唯一の3割台で打率トップに立つ広島・小園海斗
9月14日現在、3位・DeNAとは6ゲーム差の4位――。残り試合が少なくなる中、厳しい戦いが続くが、逆転でのクライマックスシリーズ(CS)進出をあきらめていない広島で、ひと際バットが冴え渡っているのが小園海斗だ。13日の中日戦(マツダスタジアム)では5回に髙橋宏斗から右前打を放つと、7回二死一、二塁では藤嶋健人の外角高めストレートを右前適時打として5対0の勝利に貢献。9日の巨人戦(東京ドーム)からの連続安打を6試合、11日の同カードからの連続マルチ安打を3試合に延ばし、3連勝の原動力となった。
9日から12日にかけては4試合連続で初回に先制打を放った。9月は全12試合に出場して打率.388、1本塁打、5打点と調子を上げ、リーグトップの打率.305をマーク。熾烈な首位打者争いを繰り広げている巨人・泉口友汰(.295)の一歩先を行っている格好だ。
昨季はチーム唯一、自身初の全試合出場。今季からは新たに背番号5を背負ったが、「レギュラーをつかみ取る気持ちでいきたい」と7年目シーズンに臨む決意を示していた。本来は遊撃、三塁を守るが、オープン戦では一、二軍の公式戦で一度も出場のない一塁守備にも就き、二塁守備の練習にも取り組んだ。「つかみ取る」意気込みを行動で体現した。
開幕からは17試合目までに10度のマルチ安打をマークと好スタート。しかし、それでも気を緩めることはない。「毎日不安」と自分と向き合いながら打席を重ねた。移動ゲーム時など、チームが“時短練習”を取り入れる中で「振る量は増やすようにしている。振らないと分からない。僕はそういうタイプ」と不安を打ち消すために日々スイングは欠かさなかった。「ちょっとここ最近、グラウンドで弱い姿が見受けられる」と新井貴浩監督に厳しい目を向けられ、今季29試合目の5月4日の中日戦(マツダスタジアム)で初めてラインアップから外れたが、翌5日のヤクルト戦(神宮)でスタメン復帰すると2回無死一塁で四球をもぎ取って雄叫びを上げ、ワンプレーへの執念も見せた。
5月は月間打率.185と苦しんだものの、6月は.352、7月は.289、8月は.330と、その後は右肩上がり。安定した打撃に磨きがかかってきたが、結果を残しても「今日はもう終わり。また明日から」と一戦一戦、目の前の1打席だけに集中してきた。今季もセ・リーグは「投高打低」が顕著で、2リーグ制後としては史上初の打率2割台の首位打者の可能性も話題に上がったが、小園は9日の巨人戦で打率3割に乗せてリーグトップに立つと、その後もキープ。安打数、出塁率もリーグ1位と“3冠”のタイトルを視野に入れ、得点圏打率も12球団唯一の4割超となる驚異の.412をたたき出している。
ただ、本人はタイトルを意識していない。開幕前から「あまり狙いにいくことはしたくない。最終的に獲れればいいけど、しっかり試合に出てタイトルに絡めるぐらいの活躍をしたいという思いだけです」と無欲の思いを強調。11日の巨人戦でヒーローとなり、お立ち台でタイトルの話を振られたが、「そっと見守ってほしいなと思います」と控えめに口にした。
思いはチームの勝利だけだ。「ひたすら打って、勝つしかない」と決意をみなぎらせる小園はCS進出の可能性がついえるまでチームのためにバットを振る。
【文責:週刊ベースボール】